比企ライフネット 話題のこーなー

 

● 2002年8月19日 記

小川生まれの珠玉の逸品
ペンタックスレンズの思い出

憧れの一眼レフ
私が中学に上がる年、学生服を見繕いに行った帰り、初めて買ったレンズ交換式一眼レフカメラがペンタックスでした。KMという名のそのモデルは普及機でしたが、レンズ交換が古いねじ込み式から現在のワンタッチロック(バィヨネット)式に改められた最初の製品です。まさしく、憧れの一眼レフでした(今でもちゃんと撮影できます)。
以来四半世紀にわたり、私はずっとペンタックスユーザーでした。その間に所有したペンタックスはのべ8台、純正交換レンズは20本を数えます。

地元製品ならではの愛着
友人達からはなぜ、もっと人気のあるニコンやキヤノンに変えないのかとよく聞かれましたが、理由がありました。それは、メーカー本社が私の生れた板橋区(最寄駅は東武東上線の常盤台)にあって、KM型も当初は本社工場で造られていたこと。そして交換レンズの大半が同じ沿線にある小川事業所で造られていたからです。つまり、なんとなく地元製品としての愛着を感じていたわけです。

少ない自然故障
愛着だけでなく、使いやすさや品質の良さも魅力でした。機能は比較的シンプルな方ですが、その分故障は少なく、原因に心当たりのないような故障は今まで一度も経験していません。学生時代からお世話になっている都内のカメラ屋の店員さんも、トラブルは本当に少ないと証言しています。設計から製造まで、品質管理に独特の哲学さえ感じさせる数少ないメーカーなのです。

旭光学工業(株)旧小川事業所の入口。2002年3月以降は本部機構の一部(研究開発センターオプティカル・テクノロジーデパートメント)、2005年7月以降は子会社のペンタックスオプトテック(株)の施設となりました(埼玉県比企郡小川町角山)。 (2002年5月下旬撮影)

旧小川事業所の一角。カメラ用レンズ製造の拠点はその後、栃木県芳賀郡益子町の同社益子事業所(ペンタックスオプトテック(株)所在地)に統合さました。
(2002年5月下旬撮影 残念ながら、いずれもカメラはニコンです。)

描写の滑らかなペンタックスレンズ
現在私が暮らしている小川町。そこで磨かれてきたペンタックスレンズは今世界中で賞賛されていますが、特にここ十数年来の描写性能の向上振りには目を見張るものがあります。ピントを合わせた部分が鮮鋭に写るのは最早当たり前のことですが、はずれた部分の描写の滑らかさにも徹底的なこだわりを見せ始めたのです。専門誌等の記事によれば、設計段階の解析数値で納得できないと、製品によってはいくつもの試作品をつくり、実写による官能テストを繰り返しながら設計を煮詰めていく場合もあるとのこと。これはまさに、一種の職人芸の世界です。そして、これを忠実に製品化できるのは、優れた生産体制があってのことと言えるでしょう。加工も組立ても、熟練技師の細かな手作業に委ねられる部分が大きいと聞きます。
小川町では古くから和紙や絹織物などの伝統工芸が育まれてきましたが、その地で数々の高性能レンズが産み出されていることが、実に相応しいことのように感じられたものです。

残念なニュース
ところで今、私のサイトを飾る写真のほとんどは、ニコンのレンズ(一部他社製品も使用)で撮影したものです。デジタルカメラに移行する際、機材一式をニコンでそろえ直しました。本当ならばペンタックスが大活躍するはずでしたが、去年の秋にメーカーからデジタル一眼レフ市場への参入見送りが発表されたため、やむを得ない選択でした。
さらに今年の春、40余年にわたって名レンズを送り出してきた小川事業所が閉鎖、栃木県の益子事業所に統合されました。不況のおり、人員削減を兼ねた事業合理化の一環だと報じられています。
そして今月13日、非常にショッキングな事実が夕方のTVニュースに流れ、翌朝の新聞でも報じられました。
「土壌汚染、基準の996倍 発がん性物質小川の事業所で」(2002年8月14日付朝日新聞朝刊、西埼玉版の見出しより)。当該の汚染物質は、レンズの洗浄などに1999年まで使用されていたテトラクロロエチレンという有機塩素系溶剤で、肝臓や腎臓を害するおそれもある物質です。同じ物質は敷地内の地下水からも高濃度で検出されており、周辺地域への影響について県も水質調査に乗り出すとのことです。
汚染はメーカーの自主的な調査により発覚し、公表されました。以前から環境改善策には向上心をもって取組んできた企業だけに、なぜもっと早く手を打てなかったのかという思いは会社側も小川町民も同じだと思います。浄化には多くの時間と費用がかかることが予想されますが、長年製品を愛用してきたユーザーとしても、この問題を少しでも早く解決し、試練を乗り越えて行って欲しいと願っています。

おわりに
数年前、新宿にあるペンタックスの修理窓口にカメラの検査を依頼しに行ったときのこと。依頼書に書かれた私の住所を見た年配の社員の方が、「ああ、小川町ですか。私も以前、あそこへ勤めていたんです」と、懐かしそうに話してくださいました。最盛期には600名を越す従業員を擁した小川事業所です。かつて勤務されていた方々やご家族皆さまの思い出も、その数だけたくさんあることと思います。私のペンタックスレンズとカメラは、次の活躍の機会まで今は一時休養中です。そのときが来るまで手入れを怠らず、大切に保管しておこうと思います。素晴らしい製品を与えてくださり、本当にありがとうございました。

管理人からのコメント >>
このページの記事に、旭光学工業株式会社に対する非難ないし弁護の意図は含まれていません。
同社の概要や製品、土壌・地下水汚染問題に関する詳しい情報は、次の公式サイトをご参照ください。

旭光学工業株式会社公式サイト >>
「PENTAX HomePage(ペンタックス ホームページ)」
「PENTAX News 2002.8.13:旧小川事業所における土壌・地下水の調査結果と今後の対応について」
「PENTAX News 2002.9.11:旧小川事業所近隣の井戸水等の調査について」
「PENTAX News 2002.11.8:旧小川事業所の土壌・地下水汚染への対応状況について」
「PENTAX News 2003.3.3:旧小川事業所の土壌・地下水汚染応急対策工事終了について」
「PENTAX News 2003.7.14:旧小川事業所の土壌・地下水汚染恒久対策工事着工について」
参考)「PENTAX News 2005.9.29:酸化トリウムを含む光学レンズ片の発見について」
注:2002年10月1日より、同社は「ペンタックス株式会社」に商号を変更しました。

2002年10月16日追記:同社は2003年春を目処にデジタル一眼レフ市場へ参入することを改めて発表(ちょっと期待・・・ヒロキ)。
2003年2月28日追記:昨日同社は、開発中のデジタル一眼レフの仕様を発表。このコンパクトさには正直驚きです。
「PENTAX News 2003.2.27:レンズ交換式一眼レフデジタルカメラの開発について」
2003年8月9日追記:発売日9月6日に決定。報道によれば店頭価格20万円前後(レンズ別)になるようです。まずはひと安心(^^)
「PENTAX News 2003.8.8:レンズ交換式デジタル一眼レフカメラ PENTAX *ist Dの発売について」
*ist Dの詳細と作例画像
2003年9月12日追記:9月6日いよいよ*ist D発売。私も購入しました。ペンタックスユーザーとしての復活です。
2006年8月8日追記:7月14日K100D発売。早速購入しました。
2006年8月8日追記:7月20日、新宿のサービスセンターの窓口の方から、交換レンズの修理は現在、“ペンタックスオプトテック小川”で行われているとの説明を受けました。関連部品の加工も継続中とのことです。何と、レンズの匠は今なお健在。嬉しくなってしまいました。

2003年10月2日:関連ページをUPしました。

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