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2005年06月06日
尼崎JR脱線事故について (その9)
スピードアップ もう一つの理由
5月31日にJR宝塚線(福知山線)運転再開時の所要時間延長を公表したJR西日本は、同線快速用電車や東海道本線新快速用電車の予備車の増強も、合わせて公表しました。
無理のないダイヤ編成で定時運転をしやすくすること。
予備車を増強して車両故障に備えること。
安全で正確な輸送サービス提供のためには、どちらも欠かせない条件だと思います。
ここでは一見、2つの異なる計画を同時進行させるような印象を受けますが、同社が国土交通省へ提出した「安全性向上計画」の文面をよく読んだところ、両条件は元々密接に関連していることが分かってきました。
そこには、同社がこれまで必要最小限の車両数で高速過密輸送を賄ってきたことが、はっきりと記されています。
6月4日付「神戸新聞」:予備車両80台増強 ラッシュ時 運用にゆとり
尼崎JR脱線事故を受けて、JR西日本は、新快速や快速として走る223系と207系の高速車両を新たに80両配置することを、4日までに明らかにした。
〔中略〕(同社が)国交省に提出した安全性向上計画の中でも、「(経営全般にわたる効率化の進展により、次第に余力が減少するなど、余裕のない事業運営となっており、こうした状況が)弾力性に欠けるダイヤ編成や輸送力の増強に対応した安全設備整備の遅れを招いた」と総括している。
これを受けて、安全性向上計画で「設備の信頼性向上」の項目で高速車両80両の導入に触れ、事故前の投資計画と比べて、80億円を上積みした。
(上記6月4日付「神戸新聞」記事より)
上記引用文の補足として、次の「安全性向上計画」本文8頁目からの抜粋も、併せてお読みください。
1 安全に係る現状の総括(反省すべき点・課題)
6.運行面・設備面での安全対策において
(3)車両配置について
・車両配置にあたっては、車両の運用効率の向上を図る観点から、全般検査、要部検査に必要な予備車は配置しているものの、車種によっては、車両故障等に対応する予備車が少ない状況にある。
・また、配置箇所での滞泊時間の短縮や車両の運用周期の長期化に伴い、車両故障時には、他区所からの臨時の運用や、検修計画の大幅な変更が発生するなど、現場作業に余裕がなくなり、厳しい車両繰りを強いることとなった。
(計画の全文は、次の5月31日付JR西日本資料をご覧ください。)
資料)安全性向上計画(PDF)
さて、JR西日本が車両性能限界の120~130km/hもの高速運転に踏み切った背景として、並走する私鉄との過度なスピード競争が指摘されています。
もとより、それが健全なサービス競争であれば、利用者からは好意的に評価されるでしょう。
しかし、安全対策が遅れているにもかかわらず、守れるはずもない運行計画を無理してまで実行しなければならなかったのは何故なのか?
「サービスアップ」も否定はできないのですが、根本的な理由は、まさに予備車両の不足にあったように思えます。
始発駅を出た電車が終点から速やかに戻って来なければ、後続の電車が足りなくなり、新たに車庫から出さなければなりません。
もしその余裕が乏しければ、予めダイヤ上で可能な限りスピードアップをして、車両運用の回転を早めるほかに有効な対策は無い訳です。
ただし、このような運用の仕方では、当然ですが車両や線路、送電施設などを酷使し、次第にそれらの検査周期や寿命を縮めて行きます。
今回の脱線事故では、これまでのところ県警が当初疑っていた車両や線路などの異常は発見されていません。
それでも、乗務員の間に予期せぬトラブルへの漠然とした不安が蔓延していたとすれば、精神的にもプレッシャーが増し、健全な職務遂行の妨げになっていたとも考えられます。
予備車削減でコストを切り詰めても、そのツケに後から追われる悪循環が事故の背景に潜んでいたとは言えないでしょうか?
国鉄民営化後、JR西日本の幹部は業績改善で早く企業としての社会的評価を得ようとして、成果を焦り過ぎていたのかもしれません。
〔続く〕
西日本旅客鉄道(株) JR西日本公式サイト
国土交通省:福知山線における列車脱線事故について
同 :航空・鉄道事故調査委員会
*通信社&新聞各紙 4月25日以降の関連記事リンク集*
共同通信社:ニュース特集・尼崎JR脱線事故
「神戸新聞」:特集・尼崎JR脱線事故
「朝日新聞」:ニュース特集 尼崎・列車脱線事故
「読売新聞」:特集 尼崎・脱線事故
「毎日新聞」:尼崎列車脱線特集
項目: 東武・JR
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