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2005年05月28日
尼崎JR脱線事故について (その7)
5月26日付記事の続きを中断し、27日現在の新しい情報をお知らせします。
速度超過防止用ATS等の整備義務付け
国土交通省がカーブの基準や鉄道各社の対象か所数を公表
5月27日付「神戸新聞」:ATS必要2400カ所 尼崎JR脱線
5月27日付「読売新聞」:ATS新設必要 48社2400か所 国交省が通達
国土交通省は尼崎脱線事故の対策として、去る5月9日に速度超過防止用ATS(自動列車停止装置)等の整備を鉄道事業者へ義務付けることで決定。緊急整備の対象となる急カーブについて理論的な調査基準を示し、鉄道各社へ調査を求めていました。
昨日27日、同省は各社提出の調査結果から割出した対象か所数を公表するとともに、ATSの設置基準を通達。この基準に基づき再精査した上で、6月末までに具体的な整備計画を提出するよう各社へ指示しました。
なお、計画作成に際して新型ATSの導入までは義務付けていませんが、旧型ATSの改良は求めています。
また、中小私鉄への財政支援も検討されるとのことです。
国土交通省:福知山線における列車脱線事故について
○5月9日 第5回対策本部を国交省本省で開催
急曲線に進入する際の速度制限に関する対策等について
資料)ATSによる曲線速度超過対策の例(PDF)
○5月27日 大臣会見
急曲線に進入する際の速度制限に関する対策について
~速度超過防止用ATS等の緊急整備~
資料)試算された条件をあてはめた場合の曲線の個所数(PDF)
再び求めたい、鉄道界全体での安全への取組み
私は5月16日付記事の中で、「事故の背景が徐々に明かされつつある今、かつて経験し得なかった新たな課題を鉄道界全体に突きつけた事故なのでは、とも思い始めています」と書きました。
その「新たな課題」へ取組む第一歩が、今ここに踏み出されたのだと期待しています。
鉄道は人の生命を預かる産業でありながら、道路交通や航空、船舶などに比べると、安全基準や従事者のための教育指針・資格などの情報が、あまりにも一般に公開されてこなかったように思われます。
確かに、自家用として広く普及している車やヘリコプター、ボートなどと違い、鉄道はまず専属の職員しか運行に従事しませんから、設備も含め事業者に一切の管理を委ねようという考え方もあるかもしれません。
しかしそれでは、事業者の安全に関する質を私たち利用者が見極めることは、なかなかできません。
これまで、鉄道事業者が何らかの経営判断を下そうとしたとき、関与できたのは国、地方自治体、筆頭株主、主要取引銀行くらいだったと思います。
そのうち、もし安全より目先の利益が優先されようとした場合、抑止力になるとしたら法による国の規制以外は無いのではないでしょうか。
けれど、だからといって規制ばかり増やして行くと、鉄道の経営や技術開発が萎縮してしまう心配があります。
では、どうすれば良いのでしょう。
ほかの乗り物や公共交通であれば、事業者側が重大ミスを起こし得るなら、「買わない」、「乗らない」という選択を示すことで、顧客や利用者側からも安全強化を促すことができるでしょう。
それに比べ、鉄道事業者には路線を占有できる強みがあり、利用者は選択の自由を縛られているのが実情です。
今回事故を起こしたJR宝塚線のように他社との競争が激しい線区でさえ、「安全こそ重要なサービス」という競争意識は、少なくともJR西日本側には芽生えなかったようです。
私は、必要なのはやはり、各事業者からの安全管理に関わる積極的な情報公開と、そのための国による何らかの指針の策定だと思います。
そして、管理基準については単に規則で義務付けるだけでなく、さらに何段階かの努力目標とすべき基準を設け、それが満たされた線区については第三者機関からの認定が受けられるような制度も有効なのではないかと思います。
認定を得る過程で目標達成度については逐次情報公開されますから、利用者からの関心や評判は高まるはずです。
同時に、沿線の付加価値や鉄道事業者の評価を高める意味でも、自治体、株主、銀行等の理解や協力も得やすくなるのではないでしょうか。
例えば、危険な踏切への跨線橋(歩道橋)設置などは自治体の協力も必要ですが、沿線利用者にとって身近な地元自治体との共同事業も認定対象になれば、利用者の安全対策への参画も一層しやすくなると思います。
(共同事業の事例は、次の4月22日付東武鉄道資料をご覧ください。)
資料)東武伊勢崎線竹ノ塚駅付近における緊急踏切対策について
もっともそれ以前の問題として、JR西日本に限って見れば、社内での情報共有の仕方についても見直す必要があるように感じました。
事故後のJR西日本側の記者会見をニュースで見ていたときも、カーブの危険性やATSシステムなどについて、会社幹部らは報道陣の質問に対し、正確に答えられていたとは思えませんでした。
特にATSについてですが、旧型(ATS-S)でも応用次第で、カーブやポイントなど、速度制限か所の手前での速度超過に対する自動停止は可能です。
一方新型(ATS-P、大手私鉄でも同様のタイプを広く採用)は、主に運転士が黄色信号を見落としたときの自動減速のために開発されたもので、これも意図的に応用しなければ制限か所手前の速度超過防止には役立たないのです。実際、新型ATSを急カーブなどでも役立てている路線は、全国的にまだ限られているようです。
(新、旧別の対策方法は次の5月9日付国土交通省資料をご覧ください。)
資料)ATSによる曲線速度超過対策の例
また運転技術の研鑽についても、乗務員同士の意見交換が円滑に行えるような職場環境を整えるなどし、かつ現場からの提言を会社経営に反映できるような企業改革も必要だと思います。
新人運転士が、ベテランでさえかつて経験したことのないような短い駅間での高速運転に対し、もう孤独な運転席での試行錯誤に悩まされることがないようにして欲しいものです。
1960年代の高度経済成長期には、急速に増え続ける輸送需要への対応に追われ、古い車両や設備の交換が追い着かず、三河島や鶴見の脱線衝突事故のように重大な鉄道事故が相次ぎました。
しかし当時は、安全対策を人員の配備で強化できる時代でもあり、その貴重な経験は鉄道界全体の財産として、人から人へと受け継がれて行きました。
今は、鉄道技術も随所で各社独自のノウハウによる自動化、ハイテク化が進み、並行して経営合理化のための人員削減も行われる時代になりました。
車両も設備も、見かけは確かにどの路線も立派になってきましたが、それらを使いこなすのは結局人です。にもかかわらず、頼りとなるはずの装置の品質など、どうも人の目に見えない部分で各社間に差が生まれつつあるようです。
鉄道の「安全神話」を受け継ぐには、現場にも、事業者にも、行政にも、そして私たち利用者にも、暖かい人間の眼差しが必要なのだと感じています。
〔続く〕
西日本旅客鉄道(株) JR西日本公式サイト
国土交通省:福知山線における列車脱線事故について
同 :航空・鉄道事故調査委員会
*通信社&新聞各紙 4月25日以降の関連記事リンク集*
共同通信社:ニュース特集・尼崎JR脱線事故
「神戸新聞」:特集・尼崎JR脱線事故
「朝日新聞」:ニュース特集 尼崎・列車脱線事故
「読売新聞」:特集 尼崎・脱線事故
「毎日新聞」:尼崎列車脱線特集
項目: 東武・JR
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