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2005年08月20日

尼崎JR脱線事故について (その16)

*8月24・27日、記事の最後に最新情報を追加しました。

その後の事故調調査。運転士、事故発生まで回避行動取れず!?

 8月19日付「神戸新聞」:
  車両傾き非常ブレーキに手届かず JR脱線で運転士

〔前略〕モニター制御装置には8段階ある常用ブレーキのうち、「5」、「7」、「8」の順に制動力の強い常用ブレーキを使用。通常は使用を禁じられている「直通予備ブレーキ」もかけていたことが記録されていたが、運転士が「8」の奥にある「非常」の位置にブレーキを入れた形跡はなかったという。
その後の調査で、常用ブレーキは1秒未満の短時間で操作されており、「8」に入れるのとほぼ同時に直通予備ブレーキが引かれていることが判明。運転士が右手で常用ブレーキの操作を始めたときにはすでに電車は傾き始めており、運転士は体勢を崩して、一番奥の非常ブレーキの位置までレバーを押し込めなかったとみられる。
事故調委は、非常ブレーキをかけられなかった同運転士が、とっさに左頭上にある直通予備ブレーキを引いたとみて調べている。

 (上記8月19日付「神戸新聞」記事より)

事故調は今月末までに、「JR西脱線事故の中間報告」を公表するようです。

 8月1日付「朝日新聞」:
  JR西脱線事故の中間報告、今月末に公表 事故調

それと同時に、最終報告を待たずに「建議」として、次の事故防止対策を国に求めるとも報じられています。

 (1)急カーブに自動列車停止装置(ATS)を設置する
 (2)事後の検証に生かすため、速度を記録する装置を列車に付ける

 など。

 8月18日付「朝日新聞」:
  列車の速度超過対策、国に要求へ JR脱線事故で事故調
 8月19日付「読売新聞」:JR福知山線事故 解明待たずに建議

なお、上記8月18日付「朝日新聞」記事によると、事故調は「運転士がなぜ大幅な速度超過をしたかなどの背景要因については、中間報告には間に合わない」との見通しを示しているようです。

仮に、伊丹駅でのオーバーランミスが無かったとしても…

7月26日付記事にも記しましたが、事故当時JR宝塚(福知山)線では、一部列車に制限いっぱいの120km/hまで速度を上げなければ守れないダイヤが設定されていました。

 7月23日付「神戸新聞」:速度の上限でダイヤ編成 宝塚線など一部路線

JR西日本が脱線事故のあった宝塚線(福知山線)や神戸、京都線で、制限速度の上限で運行しなければ守れないダイヤを一部編成していたことが22日、国土交通省が指示した緊急点検で確認された。

 (上記7月23日付「神戸新聞」記事より)

また、5月25日付記事にも、次の新聞記事の引用を本日追加しました。

 5月25日付「神戸新聞」:運転士「遅ればん回で焦り」 事故調初見解

事故を起こした快速電車は遅れを回復する時間が設定されていない「余裕時分」ゼロの厳しいダイヤで、事故調委は心理的な負担がその後の運転に影響したとみて、高見運転士の心理状況なども詳しく調べる。

 (上記5月25日付「神戸新聞」記事より)

 5月24日付「神戸新聞」:「余裕時分ゼロ」集中 通勤時間帯外の日中

事故を起こした快速電車は、ラッシュ時間帯からデータイムに入った3分後に宝塚駅を発車。しかも、余裕時分ゼロの電車の中でも最短の1本だった。データイムの余裕のなさが運転士に過度の重圧を与えていたとみられる。

 (上記5月24日付「神戸新聞」記事より)

これらの記事の内容から、事故車は同線で最も定時運転の難しい列車の一つだったことが、あらためて分かります。
仮に、始発駅までの回送時も含め、運転士のミスも無く順調に伊丹駅を発車できていたとしても、現場カーブまでの短い直線コースを全力疾走しなければならない状況に変わりはなかったことになります。
もしカーブ手前で運転士の体調の急変、あるいは運転を妨げられる何らかのトラブルなどが生じた場合でも、事故を未然に防ぐ対策はほとんど備わっていませんでした。
理論上、現場のような半径300mのカーブでは133km/h以上でなければ脱線しないという解析結果があるそうですが、様々な要因が重なれば例外もありうることを、今回の事故は物語っています。
安全対策の原点にもどって考えると、急カーブ間際まで120km/hもの高速運転を許すような設計自体、避けるべきだったとしか言いようがないのではないでしょうか。
ダイや編成に無理はないか、チェックすることの重要性への認識が高まっているようですが、それ以前にそうしたダイヤを作らせないためのルールも考えられるのではないかと思えます。

見せかけではなく、本当に意味のあるサービスを

公共交通の所要時間短縮は社会のニーズであり、事業者にとって永遠の課題とも言えます。
その対応策には、電車の発車時の加速性能向上、乗り降りに時間のかかる車両への乗車口増設や座席の省略など、最高速度を上げる以外にも様々な手段があり、効果が認められています。
また、乗車区間によっては、待たないと来ない快速より頻繁に来る各駅停車を利用した方が早く着ける、という事例もあります。
見せかけではなく、本当に意味のあるサービスとは何か、事業者も役所も、そして私たち沿線住民も、協同して考え実現していけるような場が欲しいものだと切に願っています。

*管理人より
長く続いた今回の事故に関する一連の記事ですが、報道を直接追うことは、今日のこの記事で一区切り付けたいと思います。
地域と鉄道との関連いついては、話題を関西から当地も含む首都圏へ移し、機会を改めてレポートを続けたいと考えています。
未熟な長文が続き、中には気分を害された方もいらっしゃることと思いますが、ご無礼をどうぞお許しください。

〔8月24日追記〕

脱線の直接的な原因、ブレーキ操作に問題あり?

明日で事故発生から4か月になります。事故調は昨日までに、脱線の直接的な原因が死亡した運転士のブレーキ操作ミスにあるとの見方をほぼ固めたようです。今後、JR西日本の乗務員の教育指導や労務管理についても調査を進めるとのことです。

 8月24日付「神戸新聞」:制動、3地点で3秒遅れ 尼崎JR脱線
 8月24日付「神戸新聞」:運転士適性検査見直し 管理のあり方改革へ

〔8月27日追記〕

事故調、「JR西脱線事故の中間報告」公表を9月上旬に変更

 8月26日付「神戸新聞」:事故調査委、中間報告 来月提出へ

脱線車両、速度計数キロ低く誤表示

 8月26日付「朝日新聞」:
  脱線車両、速度計5キロ低く表示 事故調が対策要求へ
 8月26日付「読売新聞」:
  速度計、過小表示か…事故調指摘 精度向上「建議」へ
 8月26日付「毎日新聞」:
  速度計、数キロ低く誤表示 国交相に精密化提案へ-事故調

国交省、鉄道会社に運転士の能力向上義務化

 8月26日付「朝日新聞」:
  鉄道運転士の免許制度、改正へ 再教育方法は国管理強化
 8月27日付「神戸新聞」:運転士講習に「安全」学科 鉄道の免許制度見直し
 8月27日付「読売新聞」:国交省、鉄道会社に運転士の能力向上義務化

〔了〕


 西日本旅客鉄道(株) JR西日本公式サイト
 国土交通省福知山線における列車脱線事故について
    同   :航空・鉄道事故調査委員会

 *通信社&新聞各紙 4月25日以降の関連記事リンク集*
 共同通信社ニュース特集・尼崎JR脱線事故
 「神戸新聞」特集・尼崎JR脱線事故
 「朝日新聞」ニュース特集 尼崎・列車脱線事故
 「読売新聞」特集 尼崎・脱線事故
 「  同  」:JR脱線事故 特集 関西発
 「毎日新聞」尼崎列車脱線特集

項目: 東武・JR

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 「"蟻の一穴"にこだわる組織こそ事故を未然に防ぐ」というタイトルの論文が、"PRESIDENT"(2005年7月18日号)に掲載されていました。  (最新号で... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年09月10日 22:28

コメント

はじめまして。
福知山線事故に関する記事を(1)~(16)まで拝見させていただきました。
長期間にわたって非常に綿密な調査をされていることに対し感銘いたしました。

ところで、国土交通省の中間報告が9/6に公表されました。
しかし、運転士の心理状況については、今回の中間報告骨子や建議骨子には盛り込ませんでした。(解明にまだ時間がかかる見込み)
この事故では、運転士の心理状況も発生原因として重要な要素を占めていると見られます。
そのため、運転士をそのような心理状況に至らせた背景(ダイヤ編成・労務管理等のソフト的な社内体制)についての解明も必要不可欠でしょう。
これまでの報道を見る限りでは、従来の社内体制が変わらない限り、同じような心理状況に陥る運転士が今後も出てくる可能性があるものと思われるためです。

投稿者 たーしー : 2005年09月10日 22:25

たーしーさん、はじめまして。コメントとTBをどうもありがとうございます。
また拙い長文を丁寧にお読みくださって、とても嬉しく思います。
このところ不在がちで、お返事が遅くなりましたことをどうぞお許しください。

私も今回の事故原因の究明が、運転士個人の問題だけで片付けられることを危惧しています。
調査の過程でJR西日本が抱える様々な問題点が浮き彫りになりましたが、それらの一つ一つが職員の方々にとって、必要以上にストレスやプレッシャーの要因になっているのではないかと心配しています。
一例として、事故車両と同系車のブレーキ特性について、ある条件下で作動遅れが生じる問題が明るみになっています。
今回の事故の直接の原因という疑いはほぼ晴れたようですが、このような不安要素は決して放置されるべきではありません。
一日も早く職員の皆さんが、自信と誇りをもって職務に集中できる環境が整うことを、願ってやみません。

投稿者 ヒロキ : 2005年09月14日 22:41

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