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2007年05月30日

ペンタックスの経営陣が6月中にさらに刷新

次期経営陣にお馴染みの鳥越興さんが就任の見通し

たびたびこのブログでもインタビュー記事をご紹介してきたペンタックス上級執行役員の鳥越興さんが、時期経営陣に就任されることが近く正式に決まるようです。ペンタックス筆頭株主の投資ファンド、スパークスグループも新人事案を十分信頼できる提案と評価していることが今日の時点で報じられていることから、TOB(株式公開買い付け)実施予定のHOYA関係者も納得できる条件が整ったと言えそうです。

 Impress「デジカメWatch」:2007年5月30日付記事
 →スパークス、ペンタックスへの株主提案を取り下げ
  ~ペンタックスの鳥越上級執行役員らの取締役就任が条件

鳥越さんはペンタックス販売の社長を経験され、ペンタックスデジタルカメラ事業を統括していく中で特にK10Dとそれに続く新製品の前宣伝に努められるなど、その実績や行動力は業界だけでなくペンタックスカメラファンの間でも注目されています(昨年以来話題を提供してきた、Impress「デジカメWatch」による主なインタビュー記事を次にまとめてみました)。

 Impress「デジカメWatch」:2007年3月12日付記事
 →【PMA07】1年半のモデルチェンジサイクルは長すぎる
  ~ペンタックス 鳥越興氏と畳家久志氏に聞く

 Impress「デジカメWatch」:2006年9月28日付記事
 →【インタビュー@Photokina 2006】夢を語れる会社に生き返ったペンタックス
  ~ペンタックス イメージングシステム事業部長 鳥越興氏に聞く
  (↓記事より抜粋)

-- 具体的な数字として、社内の目標はあるのでしょうか??

「ソニーがαレンズを21本開発すると話しています。これも大変な数ですが、私個人の気持ちとしては、もっとたくさん出したい。具体的な数は言えませんが、そうした意気込みはあるということです。さらにもう一度、構造改革を実施して、レンズ開発の体制を強化します」。

-- トキナーとの共同開発も、さらに推し進めるのでしょうか?

「トキナーとは、レンズの共同開発を今よりもさらに密にしていきます。言い換えれば、他社との協業にしても、積極的な製品開発にしても、製品が売れて事業が好転しているからこそできることです。それほど我々の状況は明るくなってきました。レンズで夢を語れるようになった。そんな会社に生き返ったのです」

管理人注)トキナーは現在、HOYA創業家の同族企業である写真用品メーカー、ケンコーの傘下にあるそうです。

 Impress「デジカメWatch」:2006年2月27日付記事
 →【インタビュー】デジタル一眼に必要な要素のすべてに取り組む
  ~ペンタックス上級執行役員イメージングシステム事業本部長 鳥越興氏

同時に、新社長には経営企画担当で執行役員の谷島信彰さんが就任される模様です。谷島さんは欧州子会社の社長を経験し医療機器事業の経験もあるうえ、HOYAとの合併協議にも携わってこられ、スパークスからも期待されています。

このニュースは新聞各紙が今日付けの朝刊で報じていますが、私が特に感心したのは「朝日新聞」や「読売新聞」など、大手各紙の経済欄より前のページに全面を使って掲載されたペンタックスK10Dの華やかな広告です。日・欧2大カメラ賞受賞に合わせた広告ですが、鳥越さんは5月11日に発表された中期経営計画「ペンタックスバリューアッププラン」の説明会でも「入門機、中級機、上級機を投入しラインナップの充実を図りデジタル一眼レフシステムを強化する」、「本年度は10本の新型レンズを投入、さらに2009年度までに約25本の新型レンズを投入したい」(5月11日付「デジカメWatch」より)と公言されています。受賞のチャンスを上手に活かした積極的な姿勢に、大きな魅力を感じます(「ペンタックスバリューアッププラン」は単独経営が建前ですが、HOYA首脳のマスコミへのコメントによると、両社経営統合の協議内容とよく似ているとのことです)。
K10Dの全面広告には、次のようなメッセージが綴られています(抜粋)。

愛情と技術を込めてつくった「K10D」が皆さんに愛され、なおかつ世界からも最高の評価をいただいたことは、ものづくりをする会社にとって、本当に幸せなことだと思います。
これまでも、これからも、ペンタックスはより良い製品づくりで皆さんに応え続けます。

注目したいのは、この広告の掲載はすでに5月25日の時点でペンタックスが公式サイトを通じ予告しているということです。この日はスパークスから綿貫社長をはじめ現経営陣が退陣を迫られ新人事案作成に取り組むなど、緊迫した状況を新聞各紙が夕刊やネット上で報じた日です。現経営陣に代わる新人事報道とK10Dの広告掲載日とが一致しなければ宣伝効果が最大限に発揮されないことから、5月25日以前の広告企画段階で新人事はとっくに内定していたと考える方が自然です。4月に退任された浦野前社長も含め、5月29日までに取締役全8人がこれまでの経営混乱の責任を取るため辞任を表明しスパークスへも正式に申し入れたとのことですが、当初はそれぞれが復帰や続投への強い意欲を見せていたのも(浦野前社長の退任は辞任ではなく内紛による「解任劇」と報じられています)新人事報道までの時間調整(時間稼ぎ)だったようにも思えます。私は以前勤めていた会社で広告企画を担当させていただいた経験があるのですが、広告代理店の協力を得て大手新聞各紙の希望するページへ希望する日に広告を出すには、周到な計画や交渉力、そしてお互いの秘密が守れる強い信頼関係が必要になるものです(私は担当者として結局落第生のままでしたが)。

ペンタックスには以前、一眼レフカメラ事業の創始者でオーナーだった故松本三郎元社長が亡くなったとき、莫大な株の相続税が遺族には払えず、その対策に大変な苦労をされたという苦い経験があると伝えられています。株を売却したことで、信用できない他企業から敵対的買収の危機にさらされる不安が常につきまとってきました。
あくまで結果論ですが、ペンタックスはスパークスの顧客である投資家の資産を利用して自社株を回収し、昔から取引のあるHOYAの豊富な資産で友好的に買収してもらうことになったと見ることもできそうです。そのタイミングは、スパークスが顧客から成功報酬を得られ、かつ買収額についてHOYA側の株主が納得できる範囲内でペンタックスの株価が向上したときがベストでしょう。K10Dの成功は、その大きな契機になったように思われます。
TOBを成功させるには株の買収価格が少しでも高い方がより確実ですが、HOYA側が4月初めに示せた額は一株770円だったそうです。5月11日のペンタックスの決算報告が極めて好調だったことからその後の値動きが客観的な根拠になると期待されたものの、株式市場の反応は鈍く、770円をなかなか上回らないようです。しかし、もうこれ以上の時間稼ぎはできず、ペンタックスとHOYAは明日にも臨時取締役会を開き、TOB開始を正式決定するとのことです。
ところで、株価が上がればHOYAはTOBを断念しペンタックスの単独経営案はスパークスからも認められたはず、という論調がマスコミの間にはあるようですが、果たしてそれはどうでしょう。株価が下がれば、株主の売り控えも考えられます。

ペンタックスが迎えるアリックス・パートナーズとは?

さて、ここで改めてペンタックス提案の次期経営陣を確認してみましょう。

 代表取締役社長候補:現経営企画担当 執行役員 谷島信彰氏
 取締役候補:現イメージングシステム事業部長 上級執行役員 鳥越興氏
 社外取締役候補:アリックス・パートナーズ日本代表 西浦裕二氏
 社外取締役候補:弁護士(元福岡高等検察庁検事長) 豊嶋秀直氏
 備考) HOYAはTOB成立後、取締役2人を派遣。

ペンタックスは今回、社外取締役を初めて迎えるそうです。2人の候補者のうち、アリックス・パートナーズ日本代表の西浦裕二さんはスパークスからの推薦です。当初4月25日の時点では、浦野前社長や森前専務の復帰を求めるスパークスの株主提案の中で候補者として推されていました。5月29日までに取締役全8人が辞任を表明し、上記取締役選任議案が6月27日の株主総会の目的事項とする合意ができたことで、この株主提案が取り下げられたことは既報の通りです。

アリックス・パートナーズについてごく簡単に調べてみましたが、企業再建を専門とする世界でもトップクラスのコンサルティング会社だそうです。その方針について同社関係者が学生向けに説明した記事を、予備校の東進公式サイト「東進ドットコム」の中に見つけましたので、ご紹介します。

羨望の職業を追え! コンサルタントシリーズ【1】 戦略コンサルタント編
 アリックス・パートナーズ戦略コンサルタント 高橋秀夫氏

 ■どんな企業にもいいところがある
 -ターンアラウンド(再生)・スペシャリストとは-
  (↓記事より抜粋)

一度力を失ってしまった企業を再生させるのは、非常に難しいことです。ひとつの企業が破たんすると、その会社の社員から商品まで、全てが悪く見られがちです。しかし、どんな企業でも必ずどこかいい所があるものです。実は素晴らしい技術を持っていたり、固定ファンがいる商品を持っていたりする。
そういう企業に対して、どうすれば短期間で業績がよくなるのかを、きちんと整理して道筋を示していきます。

 ■「絶対に立ち直らせる」という熱意が、人の心を動かす
  (↓記事より抜粋)

私がプランを説明しても、皆さんは「本当にできるのか」と半ば投げ出している状態でした。しかし私は諦めず、従業員を集めて何度も何度も説明しました。自分のプランに確信を持っていたからです。
すると、徐々に社内のムードが変化していきました。最初は「外部の人間の言うことなんか」と言っていた役員も、私のプランに納得して「ぜひやりたい」「これしかない」と前向きになってくれたんです。
〔中略〕プランの内容はもちろんですが、それだけでは人は動きません。戦略を作る冷静さはもちろん、絶対に立ち直らせるという熱意、人の心に訴える力がいちばん必要なんだと実感できた一件でした。

私は、谷島さんや鳥越さんを選んだペンタックスの取締役選任議案作成には、直接的にせよ間接的にせよ、アリックス・パートナーズのアドバイスが何らかの形で及んでいるのではないかと読んでいます。いえ、それよりもっと前から私は、ペンタックスのバックに相当有能でしたたかな経営コンサルタントの気配を感じていました(1社とは限らないと思いますが)。
スパークスの顧客にしてもHOYAの株主にしても、一般の投資家は内視鏡などの医療機器のように、誰もが儲かると予想しやすい事業にしか興味を持たない傾向が多分にあります。そのため、ペンタックスの企業価値の向上策についても、まず医療機器事業の将来性から説明していかざるを得ません。しかし、儲かる事業だけ常にフル回転で続けることができるなら、世の中に経営コンサルタントはなくても済むはずです。
どんな分野の製造業でもそうですが、新製品がヒットした直後は生産に追われ、その後しばらく次の買い替え時期まで工場や倉庫に余力が生じることはよくあります。本業と副業とを区別する必要は必ずしもありませんが、複数の事業を上手に組み合わせることで、そうした余力をも最大限に活かし、企業価値を高めることだってできるはずです。だから、一番儲かる事業ばかりに目を奪われることは、決して賢明とは言えないのです。

【追記】

ペンタックスとHOYAは5月31日、HOYAがペンタックス株式のTOBを実施して完全子会社化することで合意しました。
買い付け価格は予定通り1株770円ですが、31日のペンタックス株の終値はその額をわずかに上回り、776円に。

惜しい…。あと1円で777円!

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