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2006年12月27日

HOYAとペンタックスとの資本規模を越えたギブアンドテイク

HOYAペンタックスHDの狙いとは?

既報の通り、HOYAとペンタックスは2007年10月に経営統合し(12月21日付記事参照)、HOYAペンタックスHDとして新たなスタートを切ります。
合併時の企業規模のあまりの差から、HOYAがペンタックスのカメラ事業を救済するかのように報じる経済記者も少なくないようですが、これはどうも興味本位な見方のような気がします。記者会見でクローズアップされたペンタックスの内視鏡事業の将来性についても根拠は確かなものですが、経営統合の趣旨について投資家の納得と評価を得るための演出の意味も含まれていたのではないかと思われます。

元々一眼レフカメラ用交換レンズメーカーでもあるHOYA

光学材料メーカーであるHOYAの製品として私たちにいちばん馴染み深いのは、やはり眼鏡用レンズやコンタクトレンズでしょう。私の今かけている眼鏡のレンズも、実はHOYAのプラスティックレンズです。
しかしブランドは表に出ないものの、双眼鏡や一眼レフカメラ用交換レンズなどの光学部材の生産でも世界的に大きなシェアを占めてきたメーカーだということは、あまり一般には知られていません。材料としての光学ガラスや樹脂などの生産だけでなく、それらを加工した半製品、さらには受注先の要望次第で完成品にまで仕上げられるだけの工場設備を国内外に保有しているのです。また、主に輸出用ですが、HOYA自身が完成品を自社ブランドで販売してきた実績もあります。
マスコミが報じる会見記事によると、合併後の他のカメラメーカーへのガラス等の供給について質問はあったようですが、すでにHOYAグループが長年にわたり製造販売してきた交換レンズなどのカメラ関連製品の動向については、ほとんど話題に取り上げられませんでした。HOYAの事業内容を良く知らず、カメラメーカーであるペンタックスとの経営統合に違和感を覚える記者の方が多かったのでしょう。

レンズ工場運営のエキスパート

経済記者の記事というのはどうしても投資家向けに、企業の経営規模や事業の収益性、将来性ばかりが興味深く書きたてられるのですが、あらゆる製造業、中でも光学関連メーカーの経営の極意は、工場や倉庫のマネージメントにあると言って良いでしょう。
利益を得るには原材料をできる限り安く仕入れ、高度な技術で加工し、アイディアに富む付加価値の高い製品として流通させる。「錬金術」に例えたがる人もいるかと思いますが、レンズに関しては例えどころかほとんどそのものです。人造宝石より旨味のある商売かもしれません。
一例をご紹介しましょう。ペンタックスファンなら誰もが(私も)無視できない注目の製品。SMC PENTAX-DA 40mmF2.8 Limited(PDFファイル、ペンタックス公式サイトより)というデジタル一眼レフ用交換レンズです。
「一眼レフ用AFレンズでは世界最薄・最軽量」とメーカーが謳うこのレンズ。使用される光学ガラスの量は小指の先ほどもないのですが、販売価格は量販店でも4万円以上と、なかなか良いお値段が付いています。

光学ガラスや樹脂の原料価格に変動はつきものです。安く仕入れられるときは先を見越し、時には思い切って多く仕入れることも必要でしょう。そして事業を素早く戦略的に展開するためにも、倉庫や工場には常にある程度のゆとりがなくてはなりません。事業展開が本決まりになってから原材料の確保や新工場の土地探しを始めるようでは、せっかくのビジネスチャンスを失うおそれもあるからです。
もうお気付きかと思いますが、前もって原材料を確保したり倉庫や工場にゆとりを設けたりすることは、製造業の経営上は必ずしも好ましいことではありません。家電や自動車など、製造するもののスケールが大きいほど、かつ商品寿命が短いほどリスクも高まり、マネージメントを誤ればメーカーにとってそれこそ命取りになります。
ところが都合の良いことに、カメラ用交換レンズというのはコンパクトでありながら付加価値が極めて高く、しかもカメラ本体に比べ商品寿命は気が遠くなるほど長いのです。そのため生産ノウハウを持つメーカーにとってはリスクの低い副業としてたいへん魅力的で、原材料や工場にゆとりのあるときはしばしば、クラシックカメラファン向けに旧式の交換レンズやカメラを復刻するような例も見られるほどです。HOYAグループにもそうした製品を企画販売する会社が以前からあり、カメラファンの間で好評を博しています。

ペンタックスはカメラメーカーですが、その前身は眼鏡用レンズメーカーでした。今のペンタックスの実質上の創業社長になる故、松本三郎さんも、叔父さんの経営するレンズ工場(ペンタックスの前身)で経営者に必要とされるマネージメント能力を徹底的に教え込まれた技術者でした。そこから育まれた企業風土にはきっと、HOYAとも相通じるものがあるはずです。
今回の報道で私も初めて知ったのですが、最近ペンタックスと交換レンズの開発で協業している光学メーカーのトキナーも、だいぶ前からHOYAグループの一員になっているそうです。HOYAが自社ブランドで輸出してきた交換レンズの多くは、トキナーブランドの交換レンズと光学系を同じくするものだったのです。
近年、一眼レフの多機能化、デジタル化が進むにつれ、カメラ本体と交換レンズとの間で交わされる情報の解読やイメージセンサーとのマッチングにはより高度なノウハウが必要になり、システムの規格を表面的に合わせるだけでは良い製品が開発しにくくなってきました。交換レンズ専業というビジネスが、以前よりリスキーな時代になったのです。そのような中でHOYAがK10Dの成功を収めたペンタックスを迎え入れることは、お互いにとって計り知れないメリットがあると言えるでしょう。

製造業は常に利益を求め、従来からの事業にとらわれ硬直することなく新しい事業にも弾力的に取り組んでいかなければ、いつかは社会から見放されてしまいます。しかしその一方で、ときに運営が不安定になりやすい製造現場を健全に維持していくためにも、長く続けられる副業とも柔軟に組み合わせるテクニックも併せ持っていなければならないのです。それは、投資家からは兎角無駄なことのように見られがちですが、有能な経営者ほどその価値の重さを十分理解しているものです(それより反対に、目先の利益にとらわれ無用な副業に溺れ、会社を潰してしまうような経営者が見抜けない素人投資家の、なんと多いことでしょう)。
HOYAとペンタックスとの経営統合により、両社の開発リソースや生産ラインが融合し、より魅力的で社会に貢献できる様々な製品が生み出されることに私は大きな期待を抱いています。記者会見で語られたことよりも、あるいは企業間で秘められている構想の方がはるかに多いに違いありません。その地道でしたたかな協力関係はある日突然出来上がったものではないし、会社の資本規模を越えてのギブアンドテイクがあって初めて成り立つものなのでしょうね。

*ご参考

HOYA(株) オプティクス事業部:
http://www.hoya-opticalworld.com/
同 沿革:
http://www.hoya-opticalworld.com/japan/company/co2.html
同 生産プロセス:
http://www.hoya-opticalworld.com/japan/PD/pd6_lens.html

項目: 写真・カメラ

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