メイン
« ペンタックス「K」シリーズとの出逢い (その2)
| 一眼レフカメラという商売 (その2 ペンタックスのソリューション) »

« 2006年02月以前 メイン | 2006年03月以降 メイン »

2006年08月30日

一眼レフカメラという商売 (その1 家電メーカーの挑戦)

大手家電系メーカーが競い合うデジタル一眼レフ

2年に一度ドイツで開催される伝統の大イベント、映像機器展示会「フォトキナ」がひと月後に迫りました。今回最も動向が注目されているのは、やはりデジタル一眼レフでしょう。
今年は初めて世界的大手家電系メーカーが相次いでデジタル一眼レフ市場へ参入し、既存メーカーも巻き込んで競うように新製品の出品を予告しています。
各社とも、交換レンズの規格も含め開発には先発カメラメーカーの協力を得ていますが、いかにユーザーを開拓するかはそれぞれ独自の努力が必要とされるところです。
実はこれがなかなか難しい。かつて一眼レフカメラという商売に手を染め、優秀な人材、設備、技術の蓄積を持ちながら結局は失敗に終わったメーカーなど、世界中にいくらでもあるのです。

家電メーカーの多くは、これまでにもビデオカメラなどの製造、販売では十分な経験を積んでいます。しかし、一眼レフ市場にはその経験を活かしにくい特殊な事情が潜んでいることを、はたしてどれほどのメーカーが認識しているのでしょうか。どちらの市場も製品が業務用と民生用とに大きく分けられる点は同じですが、ビデオカメラでのセオリーは、一眼レフにはそう簡単には通用しないところがあるのです。
ビデオカメラの場合、テレビ放送などの業務用と一般アマチュア向けの民生用とでは、その価格、性能、操作方法には相当大きな隔たりがあります。一方、デジタル一眼レフの場合は7、8年前こそ300万円前後はするような報道、広告制作向けの業務用しかなかったのですが、コストダウンや使い勝手の向上から、今はプロ用機のユーザーもハイアマチュアが多くを占めるようになりました。逆に、飛躍的に性能の良くなった中級機がプロの間でも認められ、仕事に使われる機会も増えています。業務用か民生用かは、ビデオカメラ市場では実情に即したものですが、デジタル一眼レフ市場ではもはや抽象的な概念、もしくは便宜上の分類でしかなくなってきているのです。
プロ向けの製品でアマチュアに精一杯ファンサービスし、アマチュア向け製品でプロのさまざまな要求にまで応えなければならないという矛盾。自社の顧客を需要の多い一般アマチュアのみと割り切り、一眼レフをホームビデオカメラと同じような娯楽商品だと錯覚すると、とんだ見当違いの事業展開をしてしまう恐れがあるのです。常識的な経営者や技術者、営業マンなら頭がおかしくなってしまいそうな世界ですが、かつてのフィルムカメラ時代の一眼レフ市場では、こうした傾向はもっと極端なものでした。
これまで一眼レフで成功できなかったメーカーの多くは、それを余力でこなせそうな手堅い副業(語弊のある言い方ですが、閑散期の道楽仕事)として位置付けてしまったところに、考えの甘さがあったのではないでしょうか。

キヤノンが示すデジタル一眼レフのビジネスモデル

IT関連の営業マンからよく、「ビジネスソリューション」という言葉を聞くようになりました。単に注文された製品を売るだけでなく、顧客が抱える業務上の問題点を解決し生産性が高められるよう、必要なものがすべて揃った最適なシステムを構築し、納品後も継続的にサポートするサービス形態を指すようです。「ソリューション」には「解明」とか「解決法」といった意味があります。

映像技術のデジタル化と各種産業のIT化とが相乗効果になり、不況が長引いたにもかかわらず、カメラ市場は年々拡大してきました。カメラメーカーとしてテレビカメラやOA機器の製造販売で家電メーカーに引けをとらないキヤノンは、早くからビジネスソリューションの考え方を営業戦略に取り入れ、売上げを伸ばしてきました。

 キヤノン(株):ソリューション
  加工型製造業向け IPモニタリングシステム

その経験から、プリンターやソフトウェアの分野でも高い開発力を持つキヤノンは、デジタル一眼レフにこれらを組み合わせ、他社に先駆けてフォトビジネス界へのソリューション提供を始めています。

 キヤノン(株):フォトスタジオ向けソリューション
  新しいデジタルフォトスタジオのソリューション

フォトスタジオ向けソリューションの例では、照明機材を扱う商社など異業種との協業も積極的に進め、これまで顧客の側では雑然として利用しにくかったアフターサービス窓口の一本化まで目指しています。
スタジオ関係者対象のデジタルフォトセミナーの開催も積極的で、このブログの8月14日付記事で紹介したオンデマンド印刷会社(株)アスカネット主催のデジタルフォトセミナーにも、キヤノンは全面的に協力しています。
こうした営業戦略を展開するため、キヤノンでは数年前からデジタル化時代のフォトビジネスの体系的な分類に取り組み、デジタル一眼レフの商品構成をそれぞれの用途に特化したものに再編成してきました。同時に、それらの開発速度を上げるために実践した主要部品の純正化、純国産化の徹底ぶりにも、目を見張るものがあります。
現行製品は5機種ありますが、ファミリー向けは1機種に絞り、実に上位4機種までが広告制作、報道、写真館、雑誌出版など各分野のプロカメラマンの要求に十分応じられる性能を充たし、妥当な価格設定で供給されているのです。
今人気の子ども写真館でキヤノンのデジタル一眼レフが使われれば、一般家庭への高い宣伝効果が期待できるでしょう。また、ワールドカップやオリンピックなどのテレビ中継で映される報道陣が揃ってキヤノンのデジタル一眼レフを構えていれば、ハイアマチュアの購買意欲を掻き立てるに違いありません。

家電メーカーにとってはぜひお手本にしたいビジネスモデルですが、決して陥ってはいけない落とし穴に気をつける必要があります。それは、売り上げという表面的な数字に囚われてはならないということです。
一眼レフ関連商品のうち、ビジネス用途での購入は全売上げの何パーセントか? また、そのような購入層への商品開発や営業活動にどの程度コストがかかり、どの程度全体の利益向上に貢献できたのか?
仮にその成績が思わしくなかった場合、株主、経営陣、技術や営業の担当部署、労組を中心とする従業員などとの間でお互いに批判や不満が噴出するようであっては、とても事業は長続きしません。一眼レフという商売は、ときに社内事情をこじらせやすい要素を孕むこともあるのです。

社会に対し、一眼レフシステムを提供することでどのような貢献がしたいのか、そのデジタル化でどのようなサービスを実現したいのか。よほど明確なビジョンや強い使命感を示せる企業風土が作れない限り、メーカーが一眼レフ事業に対するモチベーション(自発的な動機付け)を維持していくことは、決して容易ではないのです。

〔続く〕

項目: 写真・カメラ

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://hiki-life.net/mt3_2/mt-tb.cgi/2319

コメント

コメントしてください




保存しますか?


« 2006年02月以前 メイン | 2006年03月以降 メイン »

« ペンタックス「K」シリーズとの出逢い (その2)
| 一眼レフカメラという商売 (その2 ペンタックスのソリューション) »
メイン | 上へ↑