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2006年10月16日

写真入門の教材としてのデジタルカメラシステム

*お願い はじめに11月2日付記事からお読みください。

写真関係の学校の実習ではフィルムカメラが主流

写真を学ぶ大学、短大、専門学校などで実習に使うカメラは、依然どこもフィルムカメラが主流のようです。同時に、暗室でのフイルム現像、ネガから印画紙へのプリントも実習で学びます。
銀塩写真と呼ばれるこの一連のプロセスでは、撮影もプリントも、光のエネルギーが感光材料に働く量を操るという点で原理は同じです。だからこの基本さえマスターすればすぐ、学生は自由に作品制作を試みることができるようになります。

ところが、デジタルカメラで写真を学ぼうとすると、同じように実習を進めるわけにはいきません。撮影の原理についてはフィルムがイメージセンサーに置き換わるだけですが、そのあと画像として処理する際はデジタル化された色情報を数値でコントロールし、さらにプリントが印刷なら色情報の数値をインクの量に換算しなければならないからです。入力から処理を経て出力に至るまで、すべて光量のコントロールを基本原理とする銀塩写真とは、根本的に世界が違うと考えて良いでしょう。両者の違いは単に、アナログとデジタルとの違いだけで説明することはできないのです。

幸い、デジタルカメラも画像を扱うパソコンソフトもプリンターも、今は自動調整機能が発達し、入門のハードルはたいへん低くなったようです。作品制作に取り組みたい人のために、画像調整の手順をガイドしてくれるソフトも増えてきました。しかし本当の意味で自由にデジタルカメラによる作品制作を試みるには、銀塩写真の世界より越えるべきハードルの数はずっと多くなるように思えます。

フィルムカメラで写真を始めることはどうか

写真を教える側にとって、基本をすぐマスターできるフィルムカメラが教材として活用しやすいことは確かでしょう。限られた時間で大勢の学生を指導するには、ルールをできるだけ一本化した方が学習効果は上がるのです。
では、これから写真を始めようとする人に最適なフィルムカメラは、どのようなものがあるでしょう。値段が手頃で自動調整機能も必要に応じて解除でき、交換レンズや付属品も揃っていることが理想です。加えて、メーカーのサポートやアフターサービスが充実していることも欠かせない条件になります。具体的にはやはり、一流メーカーの35mm判一眼レフカメラということになるでしょうか。

そこで、上の各条件に当てはまる一眼レフカメラをネットで探してみたのですが、現時点で生産しているメーカーはキヤノン、ニコン、ペンタックスの3社しか見つかりませんでした。ほかに写真愛好家の間では良く知られているコシナ、シグマなどのメーカーも調べてみたのですが、残念ながらつい最近生産を終えてしまったようです。中古市場やドイツのライカのような高級品、輸入規模の小さいロシア製カメラなどにも目を向ければ様々な一眼レフが見つかりますが、趣味としての面白さはあっても、写真入門の教材として適切かどうかは疑問が残ります。
既報の通り、キヤノンやニコンは今年に入ってフィルムカメラの新規開発中止や商品構成の大幅整理を表明しました。ペンタックスはそのようなアナウンスをしていませんが、フィルムカメラの商品構成はやはり縮小傾向にあるようです。こうなるともう、フィルムカメラで写真を始めることは、事実上一般には勧めにくい時代になったと認識するしかなさそうです。

機材を統一したい写真入門の教材としてのデジタルカメラシステム

原理の習得は後にまわす。現実問題としてまずこの発想を受け入れなければ、デジタルカメラで表現手段としての写真を学ぶ、あるいは教えることは、時間がいくらあっても足りなくなるかもしれません。作品制作のためコントロールすべき要素が複雑多岐にわたるなら、初歩段階ではそれらを無理にでも単純化し、学習しやすいルールや環境を意図的に定めてしまうほかないでしょう。
それには、デジタルカメラやパソコンソフト、プリンターなどを製造販売する各企業にも、協力を求める必要があります。つまり、入力から画像処理、出力まですべて一貫した、写真入門の教材としてのデジタルカメラシステムを構築してもらうのです。システム構築は何らかの代理業者が複数のメーカーとの協業で行う方法がまず考えられますが、必要なセットを一括生産しているメーカーがあれば、より早くこの分野のビジネススタイルを確立することができそうです。

私の学生時代、写真関係の学校の新入生は入学前から35mm判一眼レフカメラを揃えている場合がほとんどで、私の母校でも特殊な機材以外、カメラはすべて自前で用意しました。機材は各自の自由で、学校側もまた特定のメーカーや機材を斡旋するようなことはしないスタンスでした(むしろメーカー側には、製品の評価の厳しさで良く知られていました。学部は文系ですけど…(^_^;))。
しかしこの先、デジタルカメラでの実習が主流になると、機材を統一しないと混乱は避けられそうにありません。新入生全員に対しカメラの、場合によってはパソコンの貸与も検討しなければいけない時期が来たのではないでしょうか。

撮影をサポートするソフトはカメラメーカー純正が前提

一頃のデジタル写真の実習は、まずAdobe社のフォトショップに代表されるレタッチソフトの習得から入るのが普通でした。デジタルカメラが一般に普及する前で、写真のデジタル化の目的が当面、スキャナで取り込んだ画像の後加工にあったからです。
撮影のデジタル化はスキャニングの手間を省き、レタッチソフトを一層活用しやすくします。しかしここで良く確認しておくべきことは、レタッチソフトの本来の役割は画像の切り抜きや合成、加筆などのためのデザインツールで、画像調整はその付帯機能として追加されているに過ぎないということです。プログラムの基本設計も、デザインワークの能率向上を最優先しているようです。したがって、撮影をサポートするためのソフトとして活用するには、自ずと限界があることになります。

日常的にデジタルカメラで撮った写真をネットで送受信したり、ポスターやポストカード作りに利用するには、JPEG形式の圧縮ファイルが扱いやすく定着しています。カメラの初期設定も、撮影モードはJPEGです。そのことから、実習もJPEG撮影から入るのが自然な気もしますが、あえてRAW撮影から始めることも一考の余地はあると私は考えています。これには、カメラの画像調整パラメータ(設定値)とRAW現像ソフトのパラメータとが完全に連動していることが前提になります。具体的にはカメラメーカー純正のRAW現像ソフトで実習を行うということですが、この辺りが機材を統一しないと混乱が生じるという所以です。RAW現像ソフトがプリンタドライバーだけでなく、印刷サポートソフトとも連動していればなお理想的です。
RAW現像ソフトのパラメータがカメラ側と連動していれば、カメラで設定した彩度やコントラスト、シャープネス、ホワイトバランスなどが正確に反映された画像をパソコンディスプレイで再生でき、かつそれらを再調整することでそれぞれの効果もシミュレーションできます(彩度やコントラスト、シャープネス、ホワイトバランスなどのカメラ側での設定については、8月8日付記事もあわせてご覧ください)。パラメータはファイル化して保存、再利用でき、実習経験の蓄積や分析にもたいへん役立ちます。カメラメーカー純正ソフトなら撮影時の各種情報も最大限に参照できるので、撮影をサポートするためのソフトとして、レタッチソフトより先に使い方を習得すべきだろうと思います。

問われるメーカー各社の意識

これまでデジタル一眼レフの普及を目指すカメラメーカー各社は、初心者層もマーケットにするため操作の自動化やブラックボックス化を意欲的に進めてきました。絵文字で撮影シーンを選べば後はカメラが適切に自動調整してくれるようになるなど確かに便利になり、一応の成果は上げられたようです。今後はハイエンドクラスの機種もコストダウンが進み、売上高を増やすには数を売らなければならない時期が来るでしょう。それには、そのようなカメラも使いこなせるユーザーを、もっと育てなければならないという事情も生じてくるはずです。
パソコンやインターネットの普及で、デジタル化された写真が利用される場面は飛躍的に増えました。それに伴い写真関係の学校の卒業生がその特性を活かして就く職業も分野が広がり、ひと口にフォトグラファーと言ってもそれは専業カメラマンのみ意味するものではなくなりつつあります。そうした中で教材としてのデジタルカメラシステムの必要性もますます高まってくると思われますが、はたして今どれほどのメーカーがそのことを強く意識しているのでしょう。
ここ1年の間に発表されてきた各社のシステム構成を見渡してみると、そろそろメーカーごとの取り組み方の違いがはっきり現れてきているように感じるのですが、いかがでしょう。

項目: 写真・カメラ

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