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2005年06月14日

尼崎JR脱線事故について (その11)

207系電車のブレーキについて

1.空気ブレーキと電気ブレーキ

電車のブレーキは、空気ブレーキと電気ブレーキとの2種類に大別されます。

(1)空気ブレーキ
空気圧で物理的に車輪を押さえ、その摩擦力で制動します。
ブレーキシューを車輪の縁に直接押し付ける方式と、車輪と同軸に装着した円盤をブレーキパッドで挟み込むディスクブレーキとがあります。

(2)電気ブレーキ
動力制御装置の回路切替により、主電動機(動力用のモーター)を発電機として作用させ、その負荷で制動します。
ちょうど、自動車のエンジンブレーキに例えることができるでしょう。
長い坂を下るときには特に適しており、その際に速度を一定に保つ機能(抑速ブレーキ、定速運転指令等)を追加した車種もあります。
発生した電気の発散の仕方により、主に次の方式があります。

 a)発電ブレーキ
  電気を車体に装架した抵抗器で熱に変え、発散させます。
 b)電力回生ブレーキ
  電気を架線にもどし、近くを走るほかの電車に再利用させます。

電力回生ブレーキは、1970年代末頃からほとんどの新設計の電車に採用されるようになりました。
この方式は近年、省エネ・低公害を目指したハイブリッド自動車にも応用されています(電気は蓄電池に蓄え、発車時に再利用)。
ほかの電車が近くを走っていないときは電気が架線にもどらず、制動力が得られないため(回生失効)、自動的に空気ブレーキへ切り替わります。
また、高速域や低速域では制動力が不足するため、同じ用に空気ブレーキで補います(近年は改良が進み、全速度域で空気ブレーキ不要の電車も登場しています)。
急ブレーキや非常ブレーキの作動時は、空気ブレーキも同時に作動します。

2.207系電車の電力回生ブレーキとインバータ制御

電車の動力には、回転速度の制御がしやすいことから、伝統的に直流電動機(直流モーター)が用いられてきました。
しかし、1980年代後半から三相交流誘導電動機をインバータにより制御する方式が台頭し、今日ではすっかり主流になっています。
インバータ制御は従来の方式と比べ、次のように様々な点で経済性に優れています。

 ・加速時の消費電力のロスが極めて少ない。
 ・回生率、制動力とも、より効果の高い電力回生ブレーキが実現できる。
 ・制御装置や電動機に、清掃や部品交換を頻繁に要するか所が少ない。
 ・編成中の動力車の数を減らしても高い走行性能が得られる。

この新方式は初め、路面電車や地下鉄、一部の私鉄などに採用されましたが、JR各社での本格採用はやや遅れ気味でした。
その中で1990年登場の207系電車は、在来線の通勤用電車では他のJRに先駆けてJR西日本が大量投入した意欲作でした。
ただ、同世代の私鉄通勤用電車と比べると、編成中の動力車の数を抑えるなど、性能よりもコストダウンを優先した設計になっています。
なお、東武東上線の地下鉄直通用9000系電車の場合、1981年製の9000型には従来方式が採用されましたが、1996年製の9050型ではインバータ制御に設計変更されています(表「各社主力電車の性能比較」参照)。


207系電車 初期型と後期型との違いは?

1.概要

JR宝塚線(福知山線)には、1991年に量産開始された207系電車が集中配備されています。
電車は基本的に4両+3両の7両編成で運用され、JR東西線を経由して学研都市線(片町線)へ直通運転されています(一部電車は他線区へも直通)。
学研都市線の京田辺~木津間では後方の宝塚寄り3両を切り離し、前4両だけが終点まで行きます。
動力車の数は、前方が4両中2両と標準的ですが、後方は3両中1両のみでコストダウンが図られています。
2004年度現在、JR西日本には4両編成が69編成、3両編成が67編成在籍し、東海道・山陽本線などでも使用されています(事故車も含む。ほかに1990年製の試作車7両編成が1編成あります)。

2.初期型と後期型との違い

207系電車は大きく初期型と後期型とに分けられ、特に動力車の制御装置や主電動機(モーター)の設計には大幅な違いが見られます。
走行性能は初期型に合わせて調整され、普段から併結で運転されています。主な違いは次の通り。
(JR西日本では両者をさらに製造番号で細かく区別していますが、その説明は割愛します。)

(1)初期型の動力車(1990年以降製造)
 ・主電動機定格出力=155kw
 ・1両当たりの主電動機の数=4個(4軸ある車輪すべてが動力付)
 ・1台のインバータが制御する主電動機の数=4個(1両に1台装架)

(2)後期型の動力車(1994年以降製造)
 ・主電動機定格出力=200kw(2002年以降製造分は220kw)  
 ・1両当たりの主電動機の数=最大4個(一部車輪の無動力化も可)
 ・1台のインバータが制御する主電動機の数=1個(1両に4台装架)

初期型は極オーソドックスな設計ですが、主電動機が1個でも故障すると動力車1両分がまったく動かなくなる弱点がありました。
後期型では電機メーカーが新しく開発したシステムを採用し、この問題が克服されています。
また、主電動機の品質が向上して定格出力(加熱等による障害が起きない一定時間内での常用出力)もアップし、走行性能に余力を持たせられるようになりました。
同時に、それほど高い走行性能が要らないローカル線などで使用する際は、余分な主電動機を開放(スイッチオフ)したり外すなどして、運転コストを下げられるようにもなりました。

後期型で採用された動力制御の新システムは、文字通り「新機軸」と呼べるもので、同時期に投入された東海道・山陽本線の新快速用223系電車にも採用されています。
また2002年以降製造の207系電車からは、主電動機や制御装置など部品類の多くが223系電車と共通になり、製造や保守整備の合理化が図られました(減速ギア比の違いから、走行性能は異なります)。
同様のシステムは、他の鉄道会社にも徐々に普及し始めているようです。

3.初期型と後期型との併結運転時の編成パターン

JR宝塚線(福知山線)、JR東西線、学研都市線(片町線)で使用中の207系電車には、次のような編成パターンがあります。

(1)4両編成(うち2両が動力車)
 ・すべて初期型=23編成(大破した事故車も含む)
 ・すべて後期型=30編成
 ・初期型の3両編成中に後期型動力車1両を加えた編成=16編成

(2)3両編成(うち1両が動力車)
 ・すべて後期型の編成のみ=67編成(事故車も含む)

初期型は当初、4両+3両の7両編成で増備されましたが、1997年のJR東西線開業と同時の直通運転開始に備え、3両編成中に後期型動力車1両を加える編成替えが行われました。
初期型7両編成のままでは、編成中の主電動機が1個でも故障すると残り2両の動力車で運転しなければならず、その場合急坂の多いJR東西線の地下線区では総出力が不十分と判断されたためです。
現在の編成パターンであれば、余力が大きく主電動機が一部故障しても運転可能な後期型動力車が最低1両は連結されるので、故障時でもダイヤへの影響を最小限に抑えられると考えられます。
なお、7両すべてが初期型という編成は1990年製の試作車1編成のみで、4両と3両とに切り離せないこともありJR宝塚線等では使用されていません。

〔続く〕

 西日本旅客鉄道(株) JR西日本公式サイト
 国土交通省福知山線における列車脱線事故について
    同   :航空・鉄道事故調査委員会

 *通信社&新聞各紙 4月25日以降の関連記事リンク集*
 共同通信社ニュース特集・尼崎JR脱線事故
 「神戸新聞」特集・尼崎JR脱線事故
 「朝日新聞」ニュース特集 尼崎・列車脱線事故
 「読売新聞」特集 尼崎・脱線事故
 「毎日新聞」尼崎列車脱線特集

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2005年06月07日

尼崎JR脱線事故について (その10)

急報! ブレーキ異常の疑惑浮上 事故調が調査を進める

 6月7日付「読売新聞」:脱線電車と同様の車両連結「ブレーキ異常」
 同日付「読売新聞」:207系電車、製造時違う車両連結でブレーキ異常?

兵庫県尼崎市のJR福知山線で脱線した快速電車と同型の207系は、製造時期の異なる車両を連結した場合、一時的にブレーキが利きにくくなったり、強くかかり過ぎたりする現象が起きることが6日、わかった。
JR西日本の技術者が2000年12月の日本機械学会・鉄道技術(連合)シンポジウムで報告していた。快速電車も同様の連結で、事故当日、オーバーランを繰り返しており、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会などは関連を調べる。

 (出展:6月7日付「読売新聞」 脱線電車と同様の車両連結「ブレーキ異常」)

とうとう新聞にも書かれたか…と、記事を読みながら深いため息をついてしまいました。

事故当日の夜、現場からの中継画面に映った事故調委員の方々の重苦しい表情、そして「いくつもの原因が複雑に絡んだ事故。慎重な調査が必要」とする代表者コメントが改めて思い出されます。
207系電車の性能に事故直後から疑問を抱いていた私は、手掛りも無いまま幾つものアマチュア鉄道研究家の方々の個人サイトを訪ね、同型車には増備の途中、ブレーキも含む動力制御装置の大幅な設計変更があったことを知りました。
ここで驚いたのは、JR宝塚線(福知山線)では、設計変更前と後の電車とではまったく区別されることなく、常時併結運転が行われていたということです。
設計上で性能の異なる電車同士の併結運転は珍しいことではないのですが、常に高速で発車停車を頻繁に繰り返す条件下ではあまり聞いたことがなく、私は「オーバーランや減速エラーを誘発し得るのでは」と内心思ったのです。
そこで、報道を追いながらしばらく様子を伺っていたのですが、専門家の間からはそのような問題点の指摘は一向に無く、結局自分の抱いた疑問は素人考えに過ぎなかったのだと納得するようになりました。
それでもどこか釈然としない部分もあったので、5月26日付記事に挿入した表「各社主力電車の性能比較」の207系の欄内に、備考として「合理化のため後期型の動力装置は223系との共通点が多い。性能は初期型に合わせて調整され併結運転も行われている」とだけ、記しておくことにしたのです。
(表中に記した、東武東上線の9000型と9050型との間にもこれに似た設計変更がありますが、併結運転は行われていません。)
しかし、まさかと言うべきか、やはりと言うべきか、ここへ来てこの疑問に再度触れることになろうとは!?
事故の真相解明まで、どうやら相当の時間がかかりそうな気配です。

それにしても、4年半前の学会シンポですでに、JR西日本の技術者がこの問題点を報告していたとは、記事を読むまで知る術もありませんでした。
事故調委員の方々は当然詳しくご存知のはずですから、当初からブレーキ異常も視野に入れ、物的証拠の収集解析に力を注いでこられたことと思います。
昨日になって事故調が新聞取材に応じたのは、何らかの証拠が得られたからなのでしょうか?
それとも、学会報告をよく知る記者が、独自に関係者へインタビューして記事にまとめたのでしょうか?
もし事故直前の、運転士の不可解な動作の背景にブレーキ異常もあったとしたら、社会が受けるショックは計り知れないものがあります。
批判や責任追及は当事者ばかりでなく、車両の設計開発に関わったメーカーや研究者など、鉄道工業界全体にまで及ぶことになるかもしれません。
上記6月7日付「読売新聞」記事で、JR西日本は取材に対し、

「異なる番台(同型の車両の製造順や仕様の違い等を示す管理番号)でも(併結で)運用を続けているが、実際の運転に影響があったという報告はなく、全く問題ない」

と説明しているそうです。
同紙記者は、学会シンポで報告を述べたという「JR西日本の技術者」にも、取材することはできたのでしょうか?
今後の報道の展開も気になるところではあります。

<参考> 日本機械学会公式サイトからの引用です。

第7回 鉄道技術連合シンポジウム プログラム(抜粋)
 (J-RAIL 2000) 2000年12月13~15日開催

12月13日 OS20 特別セッション(車輪-レール系)
16.40~17.40 車輪滑走と制御 〔座長 曽根悟※(工学院大)〕
 1112 VVVF車両における電気ブレーキと空気ブレーキ
      との協調について(207系電車の場合)
 ○大上和久(JR西日本),今村洋一

※(管理人注)
曽根悟(そねさとる)工学院大学教授・東京大学名誉教授は、鉄道をはじめとする交通システム工学の専門家としてたいへん著名な方です。
事故直後からテレビの報道番組などに数多く出演されているので、覚えておられる読者もいらっしゃると思います。
5月26日にはJR西日本から、「企業風土の刷新」のため教授を社外取締役に迎える方針が発表され、話題になりました。

 5月26日付「神戸新聞」:JR西社外取締役 曽根・東大名誉教授就任へ
 5月26日付「読売新聞」:専門家の工学院大・曽根教授、JR西社外取締役に

私は学生時代、カメラを携え全国各地を鉄道で旅しましたから、今も鉄道への愛着は人一倍ありますし、ある程度の予備知識も持っています。
しかし、専門的に鉄道を趣味にしているアマチュア研究家の方々のようなレベルには、到底及びません。
今回の事故の悲惨さや原因の複雑さ、社会への影響の大きさを考えると、これ以上の深追いはもう、自分の力量では無理だろうと感じています。
まず最低限、207系電車の動力装置とブレーキの原理について間単にお話しし、後はテーマを地元の東武東上線の方へ移して行きたいと考えています。

〔続く〕

 西日本旅客鉄道(株) JR西日本公式サイト
 国土交通省福知山線における列車脱線事故について
    同   :航空・鉄道事故調査委員会

 *通信社&新聞各紙 4月25日以降の関連記事リンク集*
 共同通信社ニュース特集・尼崎JR脱線事故
 「神戸新聞」特集・尼崎JR脱線事故
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 「読売新聞」特集 尼崎・脱線事故
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2005年06月06日

尼崎JR脱線事故について (その9)

スピードアップ もう一つの理由

5月31日にJR宝塚線(福知山線)運転再開時の所要時間延長を公表したJR西日本は、同線快速用電車や東海道本線新快速用電車の予備車の増強も、合わせて公表しました。

 無理のないダイヤ編成で定時運転をしやすくすること。
 予備車を増強して車両故障に備えること。

安全で正確な輸送サービス提供のためには、どちらも欠かせない条件だと思います。
ここでは一見、2つの異なる計画を同時進行させるような印象を受けますが、同社が国土交通省へ提出した「安全性向上計画」の文面をよく読んだところ、両条件は元々密接に関連していることが分かってきました。
そこには、同社がこれまで必要最小限の車両数で高速過密輸送を賄ってきたことが、はっきりと記されています。

 6月4日付「神戸新聞」:予備車両80台増強 ラッシュ時 運用にゆとり

尼崎JR脱線事故を受けて、JR西日本は、新快速や快速として走る223系と207系の高速車両を新たに80両配置することを、4日までに明らかにした。
〔中略〕(同社が)国交省に提出した安全性向上計画の中でも、「(経営全般にわたる効率化の進展により、次第に余力が減少するなど、余裕のない事業運営となっており、こうした状況が)弾力性に欠けるダイヤ編成や輸送力の増強に対応した安全設備整備の遅れを招いた」と総括している。
これを受けて、安全性向上計画で「設備の信頼性向上」の項目で高速車両80両の導入に触れ、事故前の投資計画と比べて、80億円を上積みした。

 (上記6月4日付「神戸新聞」記事より)

上記引用文の補足として、次の「安全性向上計画」本文8頁目からの抜粋も、併せてお読みください。

1 安全に係る現状の総括(反省すべき点・課題)
 6.運行面・設備面での安全対策において

(3)車両配置について
・車両配置にあたっては、車両の運用効率の向上を図る観点から、全般検査、要部検査に必要な予備車は配置しているものの、車種によっては、車両故障等に対応する予備車が少ない状況にある。
・また、配置箇所での滞泊時間の短縮や車両の運用周期の長期化に伴い、車両故障時には、他区所からの臨時の運用や、検修計画の大幅な変更が発生するなど、現場作業に余裕がなくなり、厳しい車両繰りを強いることとなった。

 (計画の全文は、次の5月31日付JR西日本資料をご覧ください。)
   資料)安全性向上計画(PDF)

さて、JR西日本が車両性能限界の120~130km/hもの高速運転に踏み切った背景として、並走する私鉄との過度なスピード競争が指摘されています。
もとより、それが健全なサービス競争であれば、利用者からは好意的に評価されるでしょう。
しかし、安全対策が遅れているにもかかわらず、守れるはずもない運行計画を無理してまで実行しなければならなかったのは何故なのか?
「サービスアップ」も否定はできないのですが、根本的な理由は、まさに予備車両の不足にあったように思えます。
始発駅を出た電車が終点から速やかに戻って来なければ、後続の電車が足りなくなり、新たに車庫から出さなければなりません。
もしその余裕が乏しければ、予めダイヤ上で可能な限りスピードアップをして、車両運用の回転を早めるほかに有効な対策は無い訳です。
ただし、このような運用の仕方では、当然ですが車両や線路、送電施設などを酷使し、次第にそれらの検査周期や寿命を縮めて行きます。
今回の脱線事故では、これまでのところ県警が当初疑っていた車両や線路などの異常は発見されていません。
それでも、乗務員の間に予期せぬトラブルへの漠然とした不安が蔓延していたとすれば、精神的にもプレッシャーが増し、健全な職務遂行の妨げになっていたとも考えられます。
予備車削減でコストを切り詰めても、そのツケに後から追われる悪循環が事故の背景に潜んでいたとは言えないでしょうか?
国鉄民営化後、JR西日本の幹部は業績改善で早く企業としての社会的評価を得ようとして、成果を焦り過ぎていたのかもしれません。

〔続く〕

 西日本旅客鉄道(株) JR西日本公式サイト
 国土交通省福知山線における列車脱線事故について
    同   :航空・鉄道事故調査委員会

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 「神戸新聞」特集・尼崎JR脱線事故
 「朝日新聞」ニュース特集 尼崎・列車脱線事故
 「読売新聞」特集 尼崎・脱線事故
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2005年06月01日

尼崎JR脱線事故について (その8)

*5月26日付「事故車、JR西日本207系電車の走行性能を検証」の続きです。

JR西日本が「安全性向上計画」に“所要時間延長”を盛り込む

 6月1日付「神戸新聞」:安全投資600億円増 JR西、国交相に計画提出
 5月31日付「朝日新聞」:JR西日本が安全性向上計画を提出

垣内剛JR西日本社長は昨日5月31日の午後、国土交通省本省を訪れ、北側国土交通相に安全性向上計画を提出しました。
 (計画の全文は、次の5月31日付JR西日本資料をご覧ください。)
   資料)安全性向上計画(PDF)

この計画案は、事前にJR西日本側と国交省側との内部間で協議を重ねた末まとめられましたが、各紙報道から読み取る限り、事故に対する反省の示し方については最後まで両者の間にすれ違いがあったようです。

 6月1日付「読売新聞」:社長決意「肉声」遠く…安全計画
 5月31日付「読売新聞」:安全性向上計画 「謝罪」と「誓い」盛る
 5月28日付「毎日新聞」:国交相、JR西社長に反省文書き直し求める
 5月25日付「神戸新聞」:認識ズレ大きく 「安全性向上計画」策定大詰め

当ブログ記事では数ある事故の反省点のうち、ダイヤ上の所要時間と制限速度との関連いついて、車両の性能も含めて取り上げてみたいと思います。

速度制限をめぐって、計画策定の段階でJR西日本と国交省との間には、次のような認識の違いが見られました。

JR西日本:
「速度は国の法令に基づいている。ルールを守っていれば事故は起きなかった」
「車両に能力があるのにスピードを落とすことは、乗客への背信だ」

国交省:
「ルールうんぬんよりも、あれだけの事故を起こしてしまったのだから、制限の見直しは当然」

 (上記5月25日付「神戸新聞」記事より)

紙面からは取材内容の一部しか窺えませんが、自粛運転での反省表明を求める国交省に対し、JR西日本側は理屈で抵抗していたように受け取れます。
結局、JR宝塚線(福知山線)は全線の最高制限速度を100km/h以下に抑制。東海道本線でも、新快速の所要時間については三ノ宮~京都間のうち、大阪までの間を1分延長するなどの見直しが盛り込まれました。

 5月31日付「読売新聞」:福知山線、最高速度100キロに抑制
 同日付「神戸新聞」:安全重視意外な波紋 三ノ宮―大阪・新快速1分延長

JR宝塚線(福知山線)の全線で100km/h以下に速度制限するのは、脱線現場となった急カーブの制限速度を70km/hから65km/hへ下げるとともに、手前の直線区間との制限速度差を35km/h以内に抑えるためだそうです。
同線では、運行再開に向けて新型ATS(自動列車停止装置)による速度超過防止対策が施されるとのことですが、どんなシステムでも「絶対安全」ということはないはずです。
複数のトラブルが重なって自動減速が間に合わない場合でも、脱線しないような運転計画や安全設計を考える余地は元々十分あったと言えるでしょう。
伊丹駅の前後以外は全線に渡りカーブの多い線ですから、そもそも100km/hを超えるような高速運転は、曲線が連続する区間に合わせた特殊設計の車両に限って行われるべきでした。
そうした車両であれば、車体が遠心力でカーブの外側へ傾くのを防ぐ機構が台車に装備され、重心も低く一般の車両より高速で走行することができます。
もっとも製造費や維持費がかかることもあり、JR西日本では今のところ、他の路線の一部の特急にしか投入していません。

また東海道本線についてですが、新快速用の223系電車は確かに130km/hで走行できる性能を備えています。
ただしその性能をフルに発揮させるには、新幹線のように途中通過駅のコースをなるべく直線に近付けるなど設備の改良が前提になります。
伊丹市の村山さんがメールで教えてくださった現役運転士さんの証言を読ませていただく限り、現実の新快速は走行性能を発揮しにくい設備環境で、ギリギリまで背伸びしたダイヤで運行されているようです(5月17日付記事参照)。
物理的に設備改良が不可能なら、減速後スムーズに130km/hまで再加速できる性能を電車に持たせなければなりません。
技術的には、採算が合うなら編成中の動力車の両数(モーター付車輪の数)を増やすことで解決できる問題なのですが、223系はその数を徹底的に減らす方針で開発された車両だったのです。

〔続く〕

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 国土交通省福知山線における列車脱線事故について
    同   :航空・鉄道事故調査委員会

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