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2006年10月23日
アドビが「Photoshop Lightroom日本語版パブリックベータ 4」を公開
2007年4月30日まで無償で試せる
10月19日、アドビは「Photoshop Lightroom日本語版パブリックベータ 4」を公開しました。
本ソフトは各社デジタルカメラのRAW現像やRAW印刷、閲覧にも対応した総合画像管理ソフトで、定番のレタッチソフト「Photoshop」シリーズを補完するものです。日本語版パブリックベータはこのバージョンで初めて公開され、Windows版、Macintosh版とも2007年4月30日まで無償で試すことができます。試用時は他のソフトを閉じ、読み込むファイルは用心のため事前にバックアップを取っておいた方が良いでしょう。要望や不具合は、次のアドビ公式サイトのコメントフォームから報告できます。
なお、英語版の発売は2007年前半ですが、日本語版については未定。価格は「Photoshop Elements」(5.0の通常パッケージ版は税込14,490円)より少し高くなる見込みとのこと。
アドビ システムズ:製品/「Photoshop CS2」
「Photoshop Lightroom日本語版パブリックベータ 4」
同、ダウンロードページ、同、要望/不具合報告コメントフォーム
「デジカメWatch」:2006年10月19日付記事
アドビ、「Lightroom日本語版β4」を公開
「デジカメWatch」:2006年10月19日付記事
アドビ、Lightroom β4 日本語版の説明会を開催
まるでショーを演じるように
写真館対象のセミナーなどでよく、講師の方に「Photoshop」による色調補正の手順を見せていただく機会があるのですが、その鮮やかな捌きには思わず見とれてしまいます。しかし、もともと合成などのデザインツールとして開発された「Photoshop」では、フォトグラファーによく使われる色調補正関連の各機能が普段は収納された状態で、それも1つずつしか使うことができません。そのため、素早く大量の画像を処理するには相当の熟練が必要になります。「Photoshop Lightroom」はこの難題を解決してくれる、現れるべくして現れた待望のソフトなのです。
例えば、写真館で撮ったばかりの姿をお客さまに選んでいただくとき、また広告の撮影現場で写真を見ながらクライアントさんやデザイナーさんと打合せをするとき、「Photoshop Lightroom」があれば相手をお待たせしなくて済みそうです。従来のソフトで色調補正に手間取っていたら相手の方はとても付き合いきれなくなってしまいます。ましてや撮影がRAWモードなら、その調整や現像にも時間を取られてしまうでしょう。
「Photoshop Lightroom」の魅力は、色調補正に必要なあらゆる機能がすべて、画面右側にすぐ使える状態でコンパクトに並んでいるところにあります。そればかりか、ハイライトから中間調を経てシャドウに至るまで、わずかなマウスの移動だけで自在に画像の調子をコントロールすることもできるのです。私のパソコン(Windows XP)のスペックはCPUがCeleron 2.4GHz、メモリが1.0GBですが、その程度でも動作は結構快適です。英語版の「パブリックベータ 3」はやや重く少ししか試せませんでしたが、この分なら製品版はより快適になってくれそうで、発売がとても楽しみになってきました。開発者の方々も、この点は特に配慮されたようです。デザインも操作性も洗練されているので、撮影依頼者がディスプレイの前で色調補正に立ち会っても、決して退屈はしないでしょう。
まるで舞台の上でショーを演じるように画像が操れるソフト。アドビの開発陣がイメージした「Photoshop Lightroom」は、きっとそんなソフトなのでしょう。実際、スライドショーを閲覧しながら大量のRAW現像調整や画像の色調補正を次々に進めていくことができるのです。調整内容は自動的に、「XMPサイドカー」と呼ばれるファイルに保存、読み込みできます。色調補正が済んだ画像はすぐ、印刷したりWEBコンテンツとして閲覧したり、さらに「Photoshop」で開いてデザイン素材に用いることもできます。世界的トップメーカーが時間をかけて開発しただけのことはあります。
ハイライトからシャドウまで広い諧調を再現
RAWファイルはイメージセンサーがとらえる広い範囲の諧調を記録しますが、標準の明るさでRAW現像すると、ハイライトかシャドウのどちらか、場合によっては両方の諧調再現が損なわれてしまうことがしばしばあります。これは、JPEGモード撮影の場合も同様です。
「Photoshop Lightroom」での露光量調整(明るさの調整。他のソフトでは露出補正や増減感など)は、画像全体のほか、ハイライト部とシャドウ部とを分けて行うこともできます。つまり、露光量(言い替えると現像量)を明る過ぎる部分は控えめに、暗すぎる部分は多めに調整できるのです。ハイライト部の調整機能だけなら市川ソフトラボラトリーが先月発売した「SILKYPIX Developer Studio 3.0」にも採用されていますが、シャドウ部まで同じ操作画面上で別々に調整できるのはたいへん便利です。これは、アドビが今年6月に買収したPixmantec発売のRaw現像ソフト「RawShooter」の機能を継承したものだと思われます。快適な動作や洗練されたデザイン、操作性も、アドビ開発陣と旧Pixmantec開発陣との協業の成せる業でしょう。このようなソフトがあってこそ、RAWモードで撮る意味も高まるというものです。
「デジカメWatch」:2006年6月27日付記事
Adobe、RAW現像ソフトのPixmantecを買収
なお、レタッチとしてハイライトやシャドウの明るさを調整する機能は、すでに「Photoshop」の現行シリーズやニコン発売の「Nikon Capture4」、「CaptureNX」などにも採用されています。しかし、それらの機能で再現できる諧調の範囲には限界があります。
JPEGモードで撮影した写真の色調補正にも有効
「Photoshop Lightroom」のセールスポイントについて、アドビはRAW現像機能の使いやすさを強調していますが、JPEGモードで撮影した写真の色調補正にも有効です。興味深いのは、RAW現像のための基本補正に含まれる各種調整機能を操作しても、JPEG形式やTIFF形式などの画像の色調補正ができるということです。
JPEGやTIFFなどの画像をRAWデータとして処理する技術は先述の市川ソフトラボラトリーが「SILKYPIX RAW Bridge(シルキーピックス ロウ ブリッジ)」の名称で開発し、同社の「SILKYPIX Developer Studio 3.0」で実用化しました。「Photoshop Lightroom」にもこれと同様の技術が採用されているのかどうかは、アドビのコメントがまったく無いので分かりません。あるいは、類似の効果が得られるレタッチ調整機能に切り替わるだけかもしれませんが、いずれにせよ詳細は製品版の正式発表待ちということになりそうです。
「Exif Print」もサポート!?
注)残念ですが、現時点ではサポートされていないようです(下欄参照)。
現在発売中のデジタルカメラの多くは「Exif Print(イグジフプリント、規格名称Exif 2.2)」に対応しています。これは、撮影時のカメラのあらゆる設定情報をプリントの自動色調補正に利用するため、2002年2月に(社)電子情報技術産業協会(JEITA)で制定された世界標準規格です。カメラメーカー純正のRAW現像ソフトも、「Exif Print」をサポートしているのが普通です。
社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)公式サイト
有限責任中間法人 カメラ映像機器工業会(CIPA)公式サイト:「Exif Print」
しかし、RAW現像ソフトで任意に補正された色調が自動プリントで再補正されては、撮影者が意図しない仕上がりになる場合もありえます。ニコンはそのためか「Nikon Capture4」以降、別売RAW現像ソフトでの「Exif Print」サポートをやめています。また、市川ソフトラボラトリーの「SILKYPIX Developer Studio」では「Exif Print」の規格に準じた現像はできるものの、自動補正をするかどうかはプリンターのドライバーソフトなどで決めるよう設計されています。このことについてメーカーへ問い合わせたところ、やはり「SILKYPIXで調整された映像は、基本的にはプリント時にさらに補正されるべきではない」という趣旨の回答をいただきました。
「Photoshop Lightroom」は、確定ではないかもしれませんが、どうやら「Exif Print」をサポートすることになりそうです。撮影後にすぐ写真を選んでプリントしたいときなど、たいへん役立つはずです。
なお、現行の「Photoshop」シリーズに付属のRAW現像機能、「Camera Raw」は、「Exif Print」には対応していません。レタッチを前提に、「Photoshop」で手早くRAWファイルを開くための機能として位置付けられているからでしょう。
*ご参考
「Photoshop Lightroom」でRAW現像すると、JPEG形式、TIFF(8bit/16bit)形式とも画像ファイルに「CR(Custom Rendered)タグ」がOFFの設定で付いてきます。「CRタグ」とは「Exif Print」に基づく情報タグで、これをONに設定すればプリンターの自動色調補正は解除されます。
「Photoshop Lightroom」に「CRタグ」のON、OFFを切り替える機能は備わっていませんが、それができるソフトもあります。フジフイルムのデジタルカメラ同梱の画像管理ソフト「FinePixViewer(Ver.3.2以上)」には専用の追加機能として「プリント自動補正解除指示(CR)ON/OFF切替ツール」が用意され、私も利用しています。また「FinePixViewer(Ver.4.0以上)」では、「Exif Print」に基づく各種情報と合わせて「CRタグ」の設定を参照することができます。
なお、市川ソフトラボラトリーの「SILKYPIX Developer Studio」では「CRタグ」が常時ONの設定で現像され、ユーザーがOFF設定を選ぶことはできません。
業界標準のソフトとして
「Photoshop」シリーズはすでにデザイン、印刷業界だけでなく写真関連業界でも標準ソフトとして定着しており、「Photoshop Lightroom」はその完成度を高めるためにも無くてはならないソフトになるでしょう。
個人が作品制作用として、あるいは写真の勉強用として使うには、もっと安くて多機能なソフトがほかにあります。しかし、公の場で十分商用に耐えるソフトとなると、残念ながら今までは無かったように思えます。
RAW現像や画像ファイルの管理、利用に便利なソフトも、選択の幅がだんだんと広がってきましたね。
注)「Exif Print」もサポート!? (2006年11月21日追記)
残念ですが、現時点ではサポートされていないようです。
「Photoshop Lightroom」で出力されたJPEGなどの画像ファイルの添付情報を富士フイルムの「FinePixViewer(Ver.4.0以上)」で確認すると、「CRタグ」がOFFの設定で付けられています。このことから「Exif Print(Exif 2.2)」準拠のExif-JPEGなどのファイル形式で出力されているものと思われたのですが、実際はそうではなく、単にCRタグが付くだけだったようです。
なお、「FinePixViewer」の保存形式変更機能で、「Exif Print(Exif 2.2)」準拠のファイル形式に一括変更することができます。
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2006年10月16日
「小川町万葉灯籠(とうろう)まつり」が開催されました
『万葉集』の研究者、仙覚律師ゆかりの地で
10月14日(土)、15日(日)の夕方から駅前通りや北裏通りにを中心に、「小川町万葉灯籠まつり」が初の試みとして、住民の手作りにより開催されました。主催は小川はつらつ商店会の皆さんです。小川町は、鎌倉時代に学問僧の仙覚律師が万葉集の研究書『万葉集註釈』をまとめた地と伝えられています。
△灯籠に照らされた北裏通り(左)と、
特産の小川和紙でつくられた万葉の衣装を着飾った子供たち(右)。
※クリックで大きな画像が開きます。
*撮影データ*
埼玉県比企郡小川町小川及び大塚にて
2006年10月15日撮影
Camera:PENTAX K100D
Lens:SMC PENTAX-FA☆ 24㎜F2 AL[IF](左)
SMC PENTAX-DA 14mmF2.8ED[IF](右)
“武蔵の小京都”として親しまれている小川町。東武東上線小川町駅前通りを中心に14、15日の2日間、「小川町万葉灯籠(とうろう)まつり」(同まつり実行委員会主催)が行われる。地域住民による手作りのまつりで、同実行委では「町の活性化につながるまつりになってほしい」としている。
鎌倉時代に鎌倉で天台宗の僧、仙覚(せんがく、1203~1272)がまとめた「万葉集註釈」は、今でも万葉集研究の基本書として評価は高い。全十巻の一部は、小川町で書かれたとみられている。
〔中略〕
町を元気にしようと町と住民で組織する小川町プロジェクトが昨年、駅前通りなどに代表的な歌と解説を記した万葉モニュメント70個を設置した。
〔中略〕
点灯時間は午後5時から9時。万葉の衣装を身に着けたパレード、撮影会もある。14日は夕市が、15日は万葉集朗唱が行われる。
同事務局長の八木忠太郎さんは「万葉の衣装の素材はもちろん小川和紙で手作り。歌碑も楽しみながら会場を回ってほしい」と話している。
「埼玉新聞」:2006年10月13日付記事より抜粋
14、15日の夜に万葉灯籠まつり 小川
「武蔵の小京都」にいにしえの火歌碑で町おこし
↑記事は10月19日(木)までネット公開されます。
まつりの事務局長を務められた八木忠太郎さんは、日本五大名飯「忠七めし」で知られる割烹旅館二葉の14代館主です。
割烹旅館 二葉:新着情報
小川町万葉灯籠まつり開催のお知らせ
各協賛者の公式サイトをご紹介します。
今回の催しは住民を中心としたいくつかのグループが、それぞれの研究や活動の成果を持ち寄り、初めて実現したのだそうです。特産の小川和紙で作られた万葉の衣装にも灯籠の明かりにも、たくさんの人たちの協力があったことでしょう。一番心配されるのが費用のことですが、スポンサーが集まるまで、商店会を中心に関係者の方々のご努力は大変なものだったろうと思います。ただ企画書を書いて示すだけなら誰でもできることかもしれませんが、小さな試みや実践の積み重ねと周到な準備とが整わなければ、これだけの協賛を得ることはできないのではないでしょうか。
この「小川町万葉灯籠まつり」をきっかけに、『万葉集』や仙覚律師に関心を持つ人たちも、きっと増えてくることでしょう。いつかは協賛の輪が広がり、夜の灯籠だけでなく、明るい里山の中でもこうした催しが開けるようになれば、仙覚律師がどのような思いでここ小川を『万葉集』研究の地に選んだのかも偲ばれ、まつりの意味もより深いものになるのではないかと感じました。
町の人口はここ数年減少傾向ですが、幸い新興住宅地の分譲や企業誘致の可能性もあり、車や電車など交通の便も次第に良くなってきました。歴史ある小川町に魅力を感じてくれる人が増えてくれれば、私も嬉しく思います。
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写真入門の教材としてのデジタルカメラシステム
*お願い はじめに11月2日付記事からお読みください。
写真関係の学校の実習ではフィルムカメラが主流
写真を学ぶ大学、短大、専門学校などで実習に使うカメラは、依然どこもフィルムカメラが主流のようです。同時に、暗室でのフイルム現像、ネガから印画紙へのプリントも実習で学びます。
銀塩写真と呼ばれるこの一連のプロセスでは、撮影もプリントも、光のエネルギーが感光材料に働く量を操るという点で原理は同じです。だからこの基本さえマスターすればすぐ、学生は自由に作品制作を試みることができるようになります。
ところが、デジタルカメラで写真を学ぼうとすると、同じように実習を進めるわけにはいきません。撮影の原理についてはフィルムがイメージセンサーに置き換わるだけですが、そのあと画像として処理する際はデジタル化された色情報を数値でコントロールし、さらにプリントが印刷なら色情報の数値をインクの量に換算しなければならないからです。入力から処理を経て出力に至るまで、すべて光量のコントロールを基本原理とする銀塩写真とは、根本的に世界が違うと考えて良いでしょう。両者の違いは単に、アナログとデジタルとの違いだけで説明することはできないのです。
幸い、デジタルカメラも画像を扱うパソコンソフトもプリンターも、今は自動調整機能が発達し、入門のハードルはたいへん低くなったようです。作品制作に取り組みたい人のために、画像調整の手順をガイドしてくれるソフトも増えてきました。しかし本当の意味で自由にデジタルカメラによる作品制作を試みるには、銀塩写真の世界より越えるべきハードルの数はずっと多くなるように思えます。
フィルムカメラで写真を始めることはどうか
写真を教える側にとって、基本をすぐマスターできるフィルムカメラが教材として活用しやすいことは確かでしょう。限られた時間で大勢の学生を指導するには、ルールをできるだけ一本化した方が学習効果は上がるのです。
では、これから写真を始めようとする人に最適なフィルムカメラは、どのようなものがあるでしょう。値段が手頃で自動調整機能も必要に応じて解除でき、交換レンズや付属品も揃っていることが理想です。加えて、メーカーのサポートやアフターサービスが充実していることも欠かせない条件になります。具体的にはやはり、一流メーカーの35mm判一眼レフカメラということになるでしょうか。
そこで、上の各条件に当てはまる一眼レフカメラをネットで探してみたのですが、現時点で生産しているメーカーはキヤノン、ニコン、ペンタックスの3社しか見つかりませんでした。ほかに写真愛好家の間では良く知られているコシナ、シグマなどのメーカーも調べてみたのですが、残念ながらつい最近生産を終えてしまったようです。中古市場やドイツのライカのような高級品、輸入規模の小さいロシア製カメラなどにも目を向ければ様々な一眼レフが見つかりますが、趣味としての面白さはあっても、写真入門の教材として適切かどうかは疑問が残ります。
既報の通り、キヤノンやニコンは今年に入ってフィルムカメラの新規開発中止や商品構成の大幅整理を表明しました。ペンタックスはそのようなアナウンスをしていませんが、フィルムカメラの商品構成はやはり縮小傾向にあるようです。こうなるともう、フィルムカメラで写真を始めることは、事実上一般には勧めにくい時代になったと認識するしかなさそうです。
機材を統一したい写真入門の教材としてのデジタルカメラシステム
原理の習得は後にまわす。現実問題としてまずこの発想を受け入れなければ、デジタルカメラで表現手段としての写真を学ぶ、あるいは教えることは、時間がいくらあっても足りなくなるかもしれません。作品制作のためコントロールすべき要素が複雑多岐にわたるなら、初歩段階ではそれらを無理にでも単純化し、学習しやすいルールや環境を意図的に定めてしまうほかないでしょう。
それには、デジタルカメラやパソコンソフト、プリンターなどを製造販売する各企業にも、協力を求める必要があります。つまり、入力から画像処理、出力まですべて一貫した、写真入門の教材としてのデジタルカメラシステムを構築してもらうのです。システム構築は何らかの代理業者が複数のメーカーとの協業で行う方法がまず考えられますが、必要なセットを一括生産しているメーカーがあれば、より早くこの分野のビジネススタイルを確立することができそうです。
私の学生時代、写真関係の学校の新入生は入学前から35mm判一眼レフカメラを揃えている場合がほとんどで、私の母校でも特殊な機材以外、カメラはすべて自前で用意しました。機材は各自の自由で、学校側もまた特定のメーカーや機材を斡旋するようなことはしないスタンスでした(むしろメーカー側には、製品の評価の厳しさで良く知られていました。学部は文系ですけど…(^_^;))。
しかしこの先、デジタルカメラでの実習が主流になると、機材を統一しないと混乱は避けられそうにありません。新入生全員に対しカメラの、場合によってはパソコンの貸与も検討しなければいけない時期が来たのではないでしょうか。
撮影をサポートするソフトはカメラメーカー純正が前提
一頃のデジタル写真の実習は、まずAdobe社のフォトショップに代表されるレタッチソフトの習得から入るのが普通でした。デジタルカメラが一般に普及する前で、写真のデジタル化の目的が当面、スキャナで取り込んだ画像の後加工にあったからです。
撮影のデジタル化はスキャニングの手間を省き、レタッチソフトを一層活用しやすくします。しかしここで良く確認しておくべきことは、レタッチソフトの本来の役割は画像の切り抜きや合成、加筆などのためのデザインツールで、画像調整はその付帯機能として追加されているに過ぎないということです。プログラムの基本設計も、デザインワークの能率向上を最優先しているようです。したがって、撮影をサポートするためのソフトとして活用するには、自ずと限界があることになります。
日常的にデジタルカメラで撮った写真をネットで送受信したり、ポスターやポストカード作りに利用するには、JPEG形式の圧縮ファイルが扱いやすく定着しています。カメラの初期設定も、撮影モードはJPEGです。そのことから、実習もJPEG撮影から入るのが自然な気もしますが、あえてRAW撮影から始めることも一考の余地はあると私は考えています。これには、カメラの画像調整パラメータ(設定値)とRAW現像ソフトのパラメータとが完全に連動していることが前提になります。具体的にはカメラメーカー純正のRAW現像ソフトで実習を行うということですが、この辺りが機材を統一しないと混乱が生じるという所以です。RAW現像ソフトがプリンタドライバーだけでなく、印刷サポートソフトとも連動していればなお理想的です。
RAW現像ソフトのパラメータがカメラ側と連動していれば、カメラで設定した彩度やコントラスト、シャープネス、ホワイトバランスなどが正確に反映された画像をパソコンディスプレイで再生でき、かつそれらを再調整することでそれぞれの効果もシミュレーションできます(彩度やコントラスト、シャープネス、ホワイトバランスなどのカメラ側での設定については、8月8日付記事もあわせてご覧ください)。パラメータはファイル化して保存、再利用でき、実習経験の蓄積や分析にもたいへん役立ちます。カメラメーカー純正ソフトなら撮影時の各種情報も最大限に参照できるので、撮影をサポートするためのソフトとして、レタッチソフトより先に使い方を習得すべきだろうと思います。
問われるメーカー各社の意識
これまでデジタル一眼レフの普及を目指すカメラメーカー各社は、初心者層もマーケットにするため操作の自動化やブラックボックス化を意欲的に進めてきました。絵文字で撮影シーンを選べば後はカメラが適切に自動調整してくれるようになるなど確かに便利になり、一応の成果は上げられたようです。今後はハイエンドクラスの機種もコストダウンが進み、売上高を増やすには数を売らなければならない時期が来るでしょう。それには、そのようなカメラも使いこなせるユーザーを、もっと育てなければならないという事情も生じてくるはずです。
パソコンやインターネットの普及で、デジタル化された写真が利用される場面は飛躍的に増えました。それに伴い写真関係の学校の卒業生がその特性を活かして就く職業も分野が広がり、ひと口にフォトグラファーと言ってもそれは専業カメラマンのみ意味するものではなくなりつつあります。そうした中で教材としてのデジタルカメラシステムの必要性もますます高まってくると思われますが、はたして今どれほどのメーカーがそのことを強く意識しているのでしょう。
ここ1年の間に発表されてきた各社のシステム構成を見渡してみると、そろそろメーカーごとの取り組み方の違いがはっきり現れてきているように感じるのですが、いかがでしょう。
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2006年10月13日
ペンタックスK10Dの発売日が11月30日に決定
発売予定の10月下旬からひと月後に
ペンタックス株式会社(社長:浦野 文男)は、レンズ交換式デジタル一眼レフカメラの新製品 「 PENTAX K10D 」 の発売日を 11月30日 に決定いたしましたのでお知らせいたします。
本製品は、9月14日の発表において10月下旬発売とお知らせしておりましたが、発表以来、全世界から予想を大幅に上回る注文があり、十分な出荷数量を確保するために上記の通り変更することにいたしました。
ペンタックス(株):2006年10月13日付プレスリリースより抜粋
「PENTAX K10D」 発売日についてのお知らせ
初めて手にするK10D(の試作機)
先日所要で都内に出た際、新宿のペンタックスフォーラムにも立ち寄りました。
初めて手にするK10D(の試作機)。想像以上にしっかりとしたつくりで、製品版への期待がますます高まってきます。
バッテリーグリップ付のボディも手に取ることができました。重いレンズを装着するときは、グリップ付きの方がバランスは良さそうです。カメラ本体との結合部の強度はどうか、少し気になっていたのですが、3年前の*istD用より建付けが良くなっていて安心して使えそうです。
ディスプレイの側で若い営業マンの方が、ノートをとりながらお客さんの質問や相談に応じていました。私も手短に、思っていたことをお訪ねしてみました。
カメラ内RAW現像へ「シフト」機能の追加も要望
カメラ内RAW現像は、K10Dで私が特に注目しているの新機能の一つです。営業の方のお話しによると、これもユーザーからの要望が多かった機能で、以前から各地の展示会などのブースで意見が寄せられていたそうです。そのような他社でも前例のないリクエストでも柔軟に取り入れてしまうペンタックスの包容力に、私もあらためて感心させられてしまいました。
そこで私も、その包容力に甘え1点リクエストさせてもらいました。それは、RAW現像の調整機能の中に「シフト」も追加してほしいというものです。
「シフト」は同梱予定のRAW現像ソフト「PENTAX PHOTO Laboratory 3」に備わっている機能で、あたかもレンズを水平に保ったまま上下左右にシフト(移動)させるような構図の調整ができます。例えば建物などを下から見上げた構図でも、柱や壁が垂直に、上すぼまりにならないよう整えることも可能です。コマーシャル分野では建築のほか、室内インテリアや商品等の撮影にも多用されます(RAW現像ソフトでシフトを効かせた作例2点を10月16日付記事に掲載中です)。
カメラ内でこうした調整ができればその場でより正確な構図を確認でき、撮影もはかどりそうです。画像データを急ぐときは、特に助けられるでしょう。
ただ、実際に「シフト」機能を追加できるかどうかはカメラ側の処理能力にもよるのですが、この点について詳細はまだ不明とのこと。1枚あたりの現像時間や消費電力なども、製品版ができるまでは分からないというお話しでした。
なお、カメラ内RAW現像機能の追加や改良などはファームウェアの更新で対応できるということで、最新ファームはこれまでの機種と同様にメーカーのサイトからダウンロードできるようなるそうです。決して私が余計なリクエストをしたため、当初の予定から発売が遅れたわけではありません(^_^;ゞ。
「光学プレビュー」と「デジタルプレビュー」との切り替えをしやすく
今日からなのか、メーカーサイトのK10D紹介コーナーがより詳しくなりました。
このブログのでも触れてきたように、「撮影機能&操作」や「インターフェース」など、各欄を読めば読むほどK10Dの随所にペンタックス独自の理想が込められていることを感じます。特に「撮影機能&操作」のハイパー操作系、「インターフェース」の各種表示やメニュー設定などの説明からは、デジタル一眼レフ開発への確かな自信が伝わってくるようです。
ペンタックス(株):製品紹介
デジタル一眼レフカメラ/K10D
ところで私には、先に挙げたカメラ内RAW現像への「シフト」機能追加のほかにも、K10Dに盛り込んでほしいことがあります。上記コーナーの「インターフェース」の説明欄に「被写界深度(※)や各種設定が確認できる2種のプレビュー表示」という項目がありますが、その「2種」をより簡単に切り替えられる方法も選べるようにしてほしいのです。「光学プレビュー」は*istD以来全機種に、「デジタルプレビュー」は今年2月発売の*istDL2以降に採用された一種の試し撮り機能ですが、両プレビュー表示の切り替えはK10Dも含めカスタムメニュー設定で行う必要があり、撮影中使い分けるには操作がやや煩わしいからです。
この点が改良されればK10Dはますますペンタックスらしいカメラになるはずなので、近々機会を見てリクエストしたいと考えているところです。これもファームウェアの更新で対応できるでしょうから、発売日に影響するようなことはないだろう、と思います。多分…(^_^;)?
※「被写界深度」については、次のページに分かりやすい説明があります。
ペンタックス(株):digiich
撮影テクニック通信「谷口泉のデジイチセミナー」(vol.6)
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2006年10月06日
ペンタックスK10Dの画質革命
待望のサンプル画像が公開されました
ペンタックスの公式サイトで、待望のK10Dのサンプル画像ファイルが公開されました。次のページからダウンロードできます。
ペンタックス(株):製品紹介
デジタル一眼レフカメラ/K10D 作例
ペンタックスの英国法人、PENTAX U.K. Ltd.の公式サイトでは、さらに多くのサンプル画像ファイルをダウンロードできます(英文)。
PENTAX U.K. Limited:Digital SLR
K10D - Images - Sample pictures
(ぶどう園の遠景のダウンロードはこちら。)
注:上から3番目の門の風景は、廉価版ズームレンズによる撮影です。
カメラの解像力の評価用としては、あまりお薦めできません。
22bitA/Dコンバーターと新画像処理エンジン「PRIME」の威力
国内公式サイトからダウンロードした各画像ファイルのEXIF情報を、ペンタックスの純正ブラウザソフト「PENTAX PHOTO Browser 3」で参照してみました。撮影日はいずれも9月の2~3日ですが、上記作例ページの現像ソフトウエア欄に「PENTAX K10D Ver.1.00(カメラ内RAW現像)」とあるので、これらの画像出力に用いたカメラは製品版に限りなく近いものではないかと思われます。カメラ内にRAW現像機能を内蔵したデジタルカメラは例がなく、様々な応用が考えられそうです。
それにしても、「画質革命」は本当だった、というのが率直な感想です。
私が特に惹かれたのは、作例3のかぼちゃの写真です。赤系統の鮮やかな色彩が豊かなグラデーションで再現されており、まったく色飽和が見られません。これには思わず息を呑みました。ヒストグラムの表示できるソフトでも、はっきりとそのことが確認できます。シャープネスも見事ですね。これまでの一般的なデジタル一眼レフでは、RAWモードで露出アンダー気味に撮影し現像ソフトで慎重に調整しても、このような描写を得ることは困難でした。個人的には、植物の色彩や質感がリアルに再現できるデジタル一眼レフというのは、この上なくありがたい存在です。
作例4のおじいさんの写真もコントラストが強く、撮る側としてはできれば避けたい光線状態ですが、ハイライトからシャドウまですべての諧調がバランス良く再現されています。シャツの生地の描写も本当に繊細です。
作例1、2の女性のバストショットもすばらしいですね。2枚目の方はあえてレフ板を使用していないようですが、それでもシャドウ部の肌の色が濁ることなく自然に再現されています。カメラ同梱の純正RAW現像ソフト「PENTAX PHOTO Laboratory3」を使えば、衣類に生じた色モアレや髪の毛にわずかに生じた段々模様(ジャギー)、逆光線のハイライトの白飛びも、もっと軽減できると思います。
以上、公開されたサンプル画像に簡単にコメントしましたが、いずれも試作機による撮影なので、製品版ではさらに良い結果が得られる可能性があります。また、カメラ内RAW現像機能についても、ファームウェアの今後のバージョンアップにより、機能や性能の一層の向上が期待できるかもしれません。
大いに活用したいカメラ内RAW現像
せっかくカメラに多機能RAW現像ソフトが同梱されていても、パソコン環境の事情ですぐには使えず、カメラとパソコンとどちらを先に買うべきか今まで悩んでいた人も少なくないかもしれません。その点、K10Dならカメラ内RAW現像ができ、RAWならではの柔軟性や高画質をパソコンレスで発揮させることができます。これも多分、22bitA/Dコンバーターで得られる質の高いRAWデータと、画像処理能力に優れた新エンジン「PRIME」の成せる業でしょう。
去年の秋でしたが、私もこんな機能があればもっと仕事がスムーズに進んだに違いない、と思える場面を体験しました。
某大手商社の水産部門で新しい家庭向け冷凍食材を扱うことになり、都内にある本社のテストキッチンに出向いて調理例のサンプル撮影をすることになりました。調理法は和、洋、中の3種類で、広告制作会社のデザイナーさん自らが腕を振るいました。カメラは*istD。撮影はRAWモードです。
しかし、ここで問題が。食材の開発元である加工会社さんが岩手県にあるので、その社員さんが撮影に立ち会うことができません。そこでやむを得ず、同じカットをJPEGで撮り直してメールに添付し、商社の営業担当者さんの机のパソコンから送信して撮影結果を確認していただいたのです。
この方法では、RAWモードならではの結果を相手の方に見ていただけないというジレンマが残ります。かといって、私が今持っているノートパソコンではRAW現像ソフトを快適に使うことはできません。カメラ内RAW現像ができればこうした悩みも万事解決、というわけです。
ほかにもまだ例はあります。
今年の春、横浜市内にオープンするお寿司屋さんの広告撮影の依頼を受けました。店頭ディスプレイ用のメニュー撮影を先に済ませ、後日店舗内のイメージカットの撮影で訪問したときのことです。照明がタングステン光でしたので、クライアントのデザイナーさんから赤味を残した色調で仕上げてくださいというリクエストをいただきました。制作進行がタイトなので、すぐ印刷所へ入稿できるよう撮影現場でデータをCD-Rに落とす必要があり、後からRAW現像やレタッチなどをしている余裕はなかったのです。
通常、このような場合はホワイトバランスを完璧に取り、リクエストに応じた赤味が演出できる色フィルターを選んでレンズの前に装着し撮影します。また、レンズの前ではなくストロボの発光部に同じフィルターを貼っても良く、私はライティングの自由度も考慮し主に後者の方法を用いました。ホワイトバランスをストロボ光に固定すれば、どのカットもほぼ同じ色調に仕上がるのも利点です。室内照明との違和感もごくわずかです。
ここでさらに、カメラ内RAW現像という手法も使えるなら、デザイナーさんと再生モニターで確認をとりながら、より制作意図に沿った色調を選ぶことができるでしょう。幸い、少し青味がかっていた*istDに比べ、この夏発売のK100Dのモニターは色の偏りも少なく、さほど厳密さを求めなければ色調補正にも十分利用することができるレベルです。K10Dも同等か、それ以上のレベルが期待できそうです。
K10Dは、ただ単に画素数を従来より増やすだけでなく、自分にとってデジタルならではの撮影の可能性を一層広げてくれるカメラになるだろうと、到着を心待ちにしています。JPEGモード撮影での画質も早く知りたいところですが、カメラ内RAW現像の結果からも、その水準の高さが想像できます。
先月は「PENTAX PHOTO Laboratory3」に現像エンジンを提供している市川ソフトラボラトリーから、汎用RAW現像ソフト「SILKYPIX Developer Studio 3.0」が発売されました。今バージョンの目玉は新技術SILKYPIX RAW Bridgeにより、JPEGやTIFF形式のファイルでもRAWと同様の調整ができるようになったことです。特にホワイトバランスの調整には有効で、私もたいへん助かっています。(8月22日付記事参照)
ファイルサイズが大きなRAWモード撮影に頼る頻度も、このようなソフトと諧調再現性に優れたK10Dとの組み合せで、大幅に減らせるかもしれないですね。楽しみです。
*ご参考
「SILKYPIX Developer Studio 3.0」試用版がこちらからダウンロードできます。
(14日間無料)
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2006年10月05日
ペンタックスK10Dの青春
デジタル一眼レフのアルカディア(理想郷)
ペンタックスは「フォトキナ 2006」への参加を機に、今後のデジタル一眼レフシステムの展開について、かなり具体的な開発内容を公にしました。
同社のイメージングシステム事業部長の鳥越興さんはImpress Watchのインタビューに応じ、ペンタックスの近況について次のようにコメントされています。
「K100D、K10Dの2製品は、まさに一眼レフカメラにこだわり続けてきたペンタックスのビジョンを具現化した製品です」
〔中略〕
「良い製品が投入でき、それが市場で受け入れられたことで、社員のモチベーションが上がってきました。PMAからたった7カ月ですが、しかし社内の士気は全く違います。若い開発者たちは、次はどんなものを作ろうかと、活き活きと目を輝かせている」
〔中略〕
「社内的にも開発者が、新しい製品へとチャレンジできる環境ができてきました。Kシリーズのコンセプト、目指すところといった軸をぶらさず、みんなが同じ価値観を共有しながら、非常にエネルギッシュに製品開発に取り組んでいます。近年ではもっとも充実した時期だと思います」
〔中略〕
「これは我々経営側が喜んでいるだけではありません。トップダウンで開発の加速を押し付けているわけでもない。社員自らが盛り上がっているんです」
「デジカメWatch」:2006年2月28日付記事より抜粋
【インタビュー@Photokina 2006】
夢を語れる会社に生き返ったペンタックス
~ペンタックス イメージングシステム事業部長 鳥越興氏に聞く
私はこのインタビュー記事を読みながら、まるで、目の前にデジタル一眼レフのアルカディア(理想郷、牧歌的な楽園)が開けてゆくような深い感動を覚えました。しかし、「後世牧人の楽園」の伝承が生まれた実際のギリシャのアルカディアの地が険しい山岳地帯であるように、K10D開発までの道のりも決して平坦なものではなかったようです。
報道用から始まったオートフォーカス一眼レフのデジタルカメラ化
交換レンズが豊富に揃ったオートフォーカス一眼レフのデジタルカメラ化は、何よりもまず速報性が求められる報道用から始まりました。
今から14年前、1992年10月に米国のコダックが発売したDCS200シリーズが、実用的な最初の市販品です。デジタル撮影部はコダック自らが開発しましたが、カメラ本体の部品や交換レンズ類は、ニコンの既製品が流用されました。画素数はまだ150万画素。その割には値段も150万円前後と高価で、大きく重く使いにくいものでしたが、世界中の報道機関で受け入れられたようです。
その後コダックはキヤノンとも協業し、ニコン、キヤノン両ユーザーへデジタル一眼レフの供給を始めましたが、ペンタックスはその対象にはなりませんでした。果して両社の間に商談があったかは私の知る由もないのですが、報道分野への市場展開が、ペンタックスの場合あまり進んでいなかったことも背景にあったのでしょう。
当時すでにペンタックスもオートフォーカス一眼レフの製品化を進めていましたが、残念なことにシステムの充実は他社よりやや遅れていました。けれどもそれは、決して開発を怠っていたからではありません。実は、業界内で起こったある訴訟事件が影響していたのです。
ペンタックスこそオートフォーカス一眼レフのパイオニア
あまり一般には知られていないことですが、一眼レフのオートフォーカス化に関して、ペンタックスは早くから実用化に向け研究を進めてきたメーカーです。これには、パートナーとなる企業がありました。様々な自動制御システムの開発で知られる、米国のハネウェルです。
ハネウェルは1950年代から70年代半ばにかけて、米国におけるペンタックス一眼レフの輸入元でもありました。その間、露出やストロボシステムなどの自動化で両社は協業関係にあり、オートフォーカス技術の共同研究もその一環として行われていたようです。ちょうど今の、ペンタックスと韓国のサムスンテックウィンとの協業関係に似ているかもしれません。
ペンタックスは1981年に、試験的な意味も含まれていたかと思われますが、研究の成果としてカメラの発展史上に残るME-Fという機種を発売しました。実際に撮影レンズが結ぶ像を利用しピントを検出するオートフォーカス一眼レフとして、世界初の快挙でした。ピント検出の原理は現在一眼レフで主流となっている方式とは異なりますが、コンパクトデジカメではほぼ同じ原理が応用されていますし、測距センサーの搭載方式自体はその後の各社の定石となるものでした。カメラメーカーとしてのペンタックスの先見性の高さを物語る好例と言えるでしょう。一方ハネウェルは、一眼レフ用として主流となる方式を確立すべく、測距センサーの更なる改良を進めていきました。
オートフォーカス測距センサーの特許問題が残した禍根
ところがここで、重大な事態が起こりました。1985年、旧ミノルタが日本国内の電子部品メーカーと組み、ハネウェルが開発していたものに極めて近い測距センサーを完成させ、それが搭載されたオートフォーカス一眼レフα7000を発売したのです。ニコン、京セラ、オリンパス、キヤノンなどの各社も競うように国産測距センサーを採用し、オートフォーカス一眼レフ市場に参入し出しました。ハネウェルが特許侵害として旧ミノルタを筆頭に、電子部品メーカーも含むこれら日本の各メーカーを訴えたのは言うまでもありません。1987年のことです。
当時ペンタックスは、極めて難しい立場にあったと思われます。国産測距センサーの採用に際してハネウェルに特許料を支払えば、国内各社の特許侵害をペンタックスが証言するかのような結果を導くからです。米国で始まった裁判を見守りながらも、結局ペンタックスは1987年、SFXという機種で他社より遅れて市場参入を果たしました。かつてのパートナーに対する配慮と国内同業者に対する配慮との間で慎重にならざるを得なかったのかもしれませんが、このときの出遅れが後のペンタックスの市場展開に少なからぬ影響を及ぼしたことは、残念ながら否めないように思えます。
旧ミノルタがなぜ危険なリスクを犯したかについては、当時の同社の経営不振に対する焦りが根底にあったからだと言われています。α7000の大ヒットは一時的にも経営危機を救いましたが、代償として同社は100億円を越えるロイヤリティをハネウェルに支払わなければならなくなりました。1992年、旧ミノルタほか各社に有罪判決が下ったからです。その後も同社の業績は回復せず、旧コニカと合併してコニカミノルタホールディングスとなりましたが、一眼レフ事業についてはこの夏、ソニーに引継がれたことは既報の通りです。
意外にも早かったフィルムカメラ技術の新規開発終了
先の特許問題ではペンタックス自らも当事者となる道を選ばざるを得ませんでしたが、その和解成立が見えてきた1991年12月、市場展開の遅れを挽回すべく発売されたのが同社初の本格的ハイアマチュア向けオートフォーカス一眼レフ、Z-1です。当然、私も発売されると同時に購入しました。私にとっては初めてのオートフォーカス一眼レフでしたが、使いやすく初期不良や自然故障などもなく、その安心感から今も2台のZ-1を仕事でも愛用しています。
Z-1は自動化を積極的に進めながらも、半自動、あるいは手動調整への切り替えが素早くできる独自の操作系を採用したところに新しさがありました。その良さは実際に使い込んだ人でないとなかなか分からない面もあって、アマチュアや大衆層よりはむしろ、プロカメラマンからプライベート用として評価を集めたようです。
その後高性能の交換レンズも続々登場し、1994年には細部を改良してよりユーザーの意図に応じた設定のできるZ-1P(Pはパーソナルの意味)も発売されました。しかし、出遅れの挽回は思うようには進まなかったようです。Z-1Pは結局、ペンタックスの35mmフィルムカメラとしては最後のハイスペックモデルになりました。
この頃になるともう、コダックからはニコンやキヤノンのオートフォーカス一眼レフをベースにした報道用デジタルカメラが発売されていたわけですが、あるいはその時点でペンタックスはすでに、フィルムカメラの将来性に見切りをつけていたのかもしれません。当時の業界の動向も知らずに私は、Z-1Pをさらに発展させた上位機種の登場を今か今かと信じて待ち続けたのですが、今思えば多分はじめから、Zを越えるものは用意されていなかったのでしょう。その後もペンタックスからは買い替えや新規ユーザーの獲得を促すほどの新製品は発売されないまま、静かに年月は過ぎていったのです。
ペンタックスK10Dの青春
間もなく発売されるK10Dは鳥越さんのインタビュー記事にもあるように、まさしく「ペンタックスのビジョンを具現化した製品」に違いありません。それは、3年前の同社初のデジタル一眼レフ*istDの発展型というだけでなく、15年前のZ-1のコンセプトを受け継ぐ正当な後継機とも思えるからです。
私がまだ中学2年生だった1979年、ペンタックスからコンパクトな廉価版一眼レフ、MV1が発売されました。そのテレビコマーシャルのBGMに流れていたのが、ユーミンこと荒井由実(現、松任谷由実)さんのヒット曲『あの日にかえりたい』でした。好きだった人の写真を泣きながらちぎり、でも捨てきれずもう一度会いたいと願う、そんな青春の切ない気持ちをふり返る歌です。給食の時間になると放送委員さんもよく流していました。ユーミンの曲にはほかにも『卒業写真』など、写真の中に込められた青春を大切に描いた歌がたくさんあります。
ペンタックスは1952年に日本で初めて35mm判一眼レフを発売したメーカーとして有名ですが、それは今の同社の実質的な創業者だった故松本三郎社長(当時)の強い意志によるものでした。あらためてメーカーサイトのK10Dのページや新しい交換レンズ群の開発ロードマップ(PDFファイル)を眺めていると、鳥越さんのお話しの中の「若い開発者たち」は今、それこそ青春の真っ只中にいるんだな、ということが伝わってきて嬉しくなります。前身となる旭光学工業合資会社は1919年の創業ですから、光学機器メーカーとしてのペンタックスは老舗中の老舗になるのですが、その開発に取り組む若々しさはまるでベンチャー企業そのものではないでしょうか。
年を重ねただけで人は老いない。理想を失うときはじめて老いる。
(サムエル・ウルマンの詞『青春』の一部より 宇野収、作山宗久訳)
私がこの詞を知ることができたのは、同じ小川町にお住まいの木工芸作家で以前は高校の世界史の先生をされていたsoroさんが、何度かご自身のブログ「No Blog,No Life!」で紹介してくださったからでした。soroさんもまた*istD以来のペンタックスのデジタル一眼レフの愛用者で、K10Dの発売を心待ちにされている近況を10月5日付のエントリーでも綴られています。
青春を撮るためにカメラがあって、だからこそそれを作る者はいつだって青春を忘れない。言葉だけでなく行いでも示してきたペンタックスは、その生い立ちからして青春の良く似合うカメラメーカーなのだと、私には思えるのです。
*ご参考
arinkoさんのサイト「P-P-Hyalala」で、荒井由実(現、松任谷由実)さんのヒットソングのメロディをいっぱい聴くことができます。
・『あの日にかえりたい』 →8番をクリックするとリストが出ます。
・『卒業写真』 →10番をクリックするとリストが出ます。
いずれも歌詞付です(JASRAC許諾第J020104784号)。
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